シナリオドリル、チュートリアル編(1)
今日は、「チュートリアルのテキスト」について、
考えていきたいと思います。
今回は「自分で考え、自分で解く」形になります。
イメージは、算数ドリルのシナリオバージョン、
『ゲームシナリオのドリル』です。
例題を元に
「チュートリアルのテキストをどう書くべきか?」を
ゆっくりと解説していきますので、
よろしければ、ノートと飲み物を片手に読み進めて下さい。
※こちらは、先日、
Twitterでお話させていただいた内容をまとめたものです。
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【例題】
「敵が出るから戦ってね!」
「わあ、勝ったね! 次も敵が出るから戦ってね。
勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」
「わあ、勝てたね! はい、回復アイテム!
回復アイテムはHPを回復するよ!」
(問)
上記、チュートリアルのテキストには、
おかしな点があります。それはどこでしょうか?
また、何故それはおかしいのでしょうか?
おかしな点と、おかしな理由を書き出して下さい。
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どうでしょう? おかしな点、見つかったでしょうか?
もし答えがわからないようでも、
自分が感じたことを言葉にして書き出してみてください。
例えば、このチュートリアルが自分にとって、
親切か?不親切か?、自然か?違和感があるか?、
楽しいものか?つまらないものか?、などです。
自分の感覚は、考える手がかりをくれます。
答えや感覚を、メモすることは出来たでしょうか?
それでは、解説していきますね。
(1)解説
このチュートリアルで悪い点は、ひとつです。
それは「ユーザーさんのアクションに先回りして結果を伝える」
というところです。
具体的には、
「敵が出る前から、敵が出ると伝える」
「戦って勝つ前から、勝てば回復アイテムが手に入ると伝える」
「回復アイテムを使う前から、HPが回復すると伝える」
の三箇所です。
それでは、テキストをひとつずつ見ていきましょう。
(2)敵が出ることを、
あらかじめ伝える必要があるケース
まず、例題の文章の一行目「敵が出るから戦ってね」です。
このテキストに違和感はありませんか?
違和感がない、よくわからないとおっしゃる方は、
こちらを考えてみてください。
「ユーザーさんに、あらかじめ
敵が出ることを伝えねばならないケースとは?」
このケースを、思いつく限り、書き出してみましょう。
・そのバトルにキャラの思惑がある場合
→「腕試しのテストだ、復讐だ」等
・そのバトルに備えが必要な場合
→「装備やスキル、仲間の入れ替え」等
・そのバトルに敗北しそうな場合
→「セーブした方がいい、引き返せ」等
ざっとこんなケースが考えられると思います。
これらのケースを、もう少し詳しく解説します。
一番上のものが「シナリオから、バトルに目的を付加したもの」
二番目、三番目のものが
「システムから、遊び方をガイドしたもの」です。
目的がある方が戦う理由が明確となりますし、
バトルに備えることができるなら、そこも遊びになるのです。
では、このことを踏まえて、
チュートリアルに戻って考えてみましょう。
(3)その予言は誰のため?
例題の文章の一行目、「敵が出るから戦ってね」。
これは、前もってバトルがあることを伝える一文ですが、
主人公や周辺キャラに「目的を付加するもの」ではありません。
また、チュートリアルでは、
初めてこのゲームに触れるユーザーさんに配慮して、
伝える情報をコンパクトに絞っています。
なので、装備や、仲間キャラの使い方など、
複雑なシステムの説明は後回しになっていることが多く、
前もってバトルがあることを伝えて、
戦いに備えてもらおうというものでもないのです。
つまり、「敵が出るから戦ってね」という台詞に、
ユーザーさんに伝えねばいけない情報は入っていません。
それなのに、先の展開を言っているので、
「この先どうなるんだろう?」というユーザーさんの
ワクワク感を奪ってしまっているのです。
遠い未来について言及するなら、
「そうなってしまうんだ」という驚きや、
「その未来を変えなくちゃ」という情報も持たせやすいでしょう。
けれども、変えようのない数分先の未来を、
「あなたのアクションの結果は、こうなりますから」と
言われれば、興味が薄れてしまいます。
以上のことから、例題の「敵が出るから戦ってね」は、
チュートリアルとしては、おかしな台詞だと言えます。
同じ理由で、2つめの台詞の中にある
「次も敵が出るから戦ってね」も適切ではないのです。
(4)アイテムゲットすることを、
あらかじめ伝える必要があるケース
次は、2つめの台詞に進みます。
「勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」です。
ここでも、逆から考えてみます。
「ユーザーさんに、あらかじめ、
敵を倒せばアイテムが入手できると
伝えねばならないケースとは?」
思いつくケースを書き出してみましょう。
・その敵が落とすアイテムがレアな場合
→「確実に仕留めろとの助言」等
・その敵が落とすアイテムが今まさに必要な場合
→「このアイテムで呪いが解けるぞ」等
たぶん、この2つのケースが、主なものだと思います。
この一番目とニ番目は、ともに、
「システムから遊び方をガイドするもの」です。
一番目は、アイテムの希少価値に着目した助言です。
二番目は、そのアイテムが必要な状況を背景に、
そのアイテムの入手を促す助言です。
では、これらのケースを踏まえて、
もう一度、チュートリアルに戻りましょう。
(5)助言か、余計なヒトコトか?
例題の「勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」は、
バトルに勝った場合、回復アイテムが手に入ることを
伝える一文です。
ですが、この台詞からは「そのアイテムの希少価値」も
「そのアイテムがなくて困っている状況」も感じ取れません。
せめてバトルの後など、HPが減った状況であるなら、
「回復アイテムだ! ラッキー!」と、
回復アイテムが入手できることを喜べたでしょう。
または、これがナビキャラや主人公が求める
「キーアイテム」なのだとの提示があれば、
その「キーアイテムを入手するため戦う!」という、
動機付けが出来たでしょう。
しかし、この台詞には、
「回復アイテムを入手したい!」と思わせるような
理由が描かれていないのです。
ですが、この台詞のせいで、ユーザーさんの感じる
アイテム入手への驚きや、ありがたみは半減しています。
また「回復」と、アイテム効能まで言ってしまっているので
「これなんだろう?」とワクワクすることすらできません。
バトルの楽しみというのは、大きくふたつあります。
ひとつは、敵を倒すことや、狙った戦い方ができることなど
「うまくできた!」という、「戦いそのものの楽しみ」です。
そしてもうひとつが、経験値やお金、アイテム入手など、
勝利の後に得る、「報酬の楽しみ」なのです。
「勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」という台詞は、
この、報酬へのワクワク感を損ねてしまうのです。
(6)ラッピング効果
さいごに、3つめの台詞
「回復アイテムはHPを回復するよ!」です。
これも、ユーザーにアイテム使用を促すだけでよく、
実際のアイテムの効能については、
ユーザーさんが試してから言及する、で充分です。
例えば、
「この薬飲んでみて。なにその疑いの目。私を信じないの?」
などで、ユーザーにアイテム使用を促します。
ユーザーさんがアイテムを使うと「HPが回復した」とアナウンス。
このアイテムの効能を、確実に伝えたいならば、
「今のが回復アイテムよ。覚えといてね」と念押し。
このくらいの流れでいいでしょう。
プレゼントにはラッピングがつきものです。
ラッピングがあることで、リボンを解き、包装紙を開ける間、
プレゼントの中身を想像するワクワクした時間が保たれます。
アイテムを手にした時、
「どんな効果だろう?」とか「強そうな武器だな、さっそく装備だ」
とか、想像をふくらませる部分が大切なのです。
この「回復アイテムはHPを回復するよ!」という台詞も、
伝えるべきことを伝えず、余計なヒトコトを言ってしまっている
文章となります。
以上、例文のチュートリアルの文章の、
どこが、どのようにおかしいのか?の解説でした。
長くなりましたので今回は、ここまでとしますね。
この続きは、「シナリオドリル、チュートリアル編(2)」で書きます。
次回は、これまでのまとめと対策についてお話しようと思います。
ありがとうございました。
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