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2013年11月13日 (水)

シナリオドリル、チュートリアル編(2)

シナリオドリル、チュートリアル編(1)」の続きです。

 前回は、例題のチュートリアルの文章の
おかしな点を、ひとつずつ指摘して、なぜおかしいのか?、
その考え方を、ゆっくりと解説していきました。

 例題はこちらです。



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【例題】

  「敵が出るから戦ってね!」

  「わあ、勝ったね! 次も敵が出るから戦ってね。
   勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」

  「わあ、勝てたね! はい、回復アイテム!
   回復アイテムはHPを回復するよ!」


(問)
  上記、チュートリアルのテキストには、
 おかしな点があります。それはどこでしょうか?

  また、何故それはおかしいのでしょうか?
 おかしな点と、おかしな理由を書き出して下さい。

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 シナリオドリル後半戦となる今回は、
チュートリアルの基本的な考え方に触れていきます。

 前回ドリルにチャレンジしてくださった方は、
よろしければ、またノートと飲み物を片手に、
気になるポイントをメモしながら、読み進んで下さい。


 それでは、まずは、
これまでのまとめと対策から、解説していきますね。




(1)前回のまとめ

 前回までの流れをまとめます。

 このチュートリアルの問題は、

「ナビキャラが、ユーザーさんがアクションする前に、
 その行動の結果を言ってしまうこと――」

 これに尽きます。

 この、結果を先回りした要らないヒトコトのせいで、
ユーザーさんは、「プレイして試す」という、
ゲームならではの楽しみを奪われ、
わかりきったことを確認させられるだけになってしまいます。


 いわゆる作業です。


 推理小説を読む前に、犯人やトリックをばらされたら、
がっかりしてしまいますよね。

 情報の先取りは、あまり歓迎されるものではありません。
知るべきタイミングで知れば良いことを、前もって伝えるのは、
親切ではなく、意地悪です。


 では、このチュートリアルどう治せばいいのでしょうか?






(2)よいチュートリアルの書き方

 チュートリアルのおかしな部分はわかりました。
それでは、良いチュートリアルとはどういうものでしょう?


 ヒントは、ゲームを楽しむ遊び心がくれます。



 困ってるキャラを助けたり、
任務遂行のため無茶したり、したくありませんか?

 その過程で戦いに巻き込まれ、
仲間と絆が深まったりしたくありませんか?

 ふいに敵が落としていったアイテムに、
ワクワクしたくありませんか?


 小さな楽しみの連続がゲームの面白さのひとつです。
そこを、テキストで支えましょう。


 守るものや成すべきことがあるから、
「このモンスターを倒して目的を遂げるぞ!」と思います。

 そんな戦いの理由があるから、
「回復アイテムがあれば心強い!」と思います。


 いきなり答えを突きつけるのではなく、
その答えを欲するようにユーザーさんの心を導く、
それがチュートリアルに求められることです。


 このチュートリアルは、たった3つの台詞で、
ユーザーのワクワク感を削いでいます。


 これが言葉の怖さであり、強さでもあります。


 ボタン連打で飛ばされてしまうようなテキストは、
誰にとっても、幸せなものではありません。


 テキストも、ゲームの大切な一部です。


 ゲームの導入を預かるチュートリアルでは、
ゲームの良さを活かし、ユーザーのワクワク感を支える
テキストを心がけましょう。





(3)おかしなチュートリアルが出来るワケ

 チュートリアルを書く時は、ユーザーさんの
ワクワク感を支えるテキストを意識するとわかりました。

 でも、それはシナリオライターなら理解しているはずです。
なのに何故、おかしなチュートリアルを見かけるのでしょう?


 シナリオは誰でも書ける、シナリオは誰でも見れる――。
という、誤解があります。

 この誤解から、シナリオに適性のない人をライターにしたり、
シナリオに明るくない人を監修にしたりということがあります。


 でも一番の原因は、シナリオに対して、
「開発からのオーダーがない」ことです。


「開発からのオーダーがないなんて、ありえない!」
と、思う方も多いでしょう。たしかにそうです。

 実際、ゲーム開発者は、シナリオライターに対し
色々なオーダーをしているつもりです。


 例えば、こんなふうにです。



「チュートリアルのはじめにバトルを持ってきて、
 ユーザーにバトルを体験させたい。
 その中で回復アイテムを使わせ、新カードを入手させたい」

などです。


 業界の方はわかると思いますが、
よくあるシナリオへのオーダーですよね。


 それで、これを、シナリオへのオーダーとして、
まじめに受け止めると、「はい、バトルになりますよ」
「はい、回復アイテムをあげますね」「はい、ここで回復しましょう」
「はい、ご褒美の新カードです」と、開発の思惑を順に並べ、
それをキャラの口調に置き換えたシナリオができます。


 つまり、シナリオへのオーダーが、
「開発の思惑として、こういう流れで遊ばせたい」に
終始してしまうため、そこからシナリオが発展しないのです。


 開発者さんは、けして、
「開発の思惑を、ダイレクトにユーザーに伝えてくれ」
という意味で、話してはいません。


 ですが、どんなシナリオがいいだろう?と話しだすと、
また、「開発の思惑からくる遊びの流れ」に立ち戻ってしまい、
開発の思惑、遊びの流れ、各要素の意味などばかり話して、
そこから抜け出せなくなるのです。


 実はここで、シナリオ制作に向けた、視点の変更が必要なのです。






(5)知ったことか!の精神

 チュートリアルのシナリオについて考えたいのに、結局、
「開発の思惑からくる、ユーザーにとって遊びやすい最良の流れ」
から話が発展しない場合があります。

 そして、そのせいで、
開発の思惑を台詞に書き換えただけのシナリオが、
あがってきてしまいます。

 でも、あがってきたシナリオは、
開発のオーダー、「遊びの流れ」をちゃんと満たしているので、
「これでいいのだろうか?」と思いながらも、
「まあ、いいんだろうな」と、なってしまうわけです。


 いいわけありませんよね。しっかりしましょう。


 荒療治になりますが、困っている方は、
まず、こう考えてみて下さい。



・「戦い」は開発側が体験させたいことであり、
 主人公の目的でもなければ、ユーザーの目的でもない

・「アイテム」の入手やタイミングも開発側の都合であり、
 主人公の目的でもなければ、ユーザーの目的でもない

 つまり、主人公とユーザーにとって、
開発者の思惑なんて、どうでもいいことなのです。


「どうでもいい」というのは、強烈な言葉ですよね。
でも、あまりショックを受けないでください。


 裏事情を知ってしまえば世界は色褪せます。
そのゲーム世界で遊ぼうとしている最中だからこそ、
ユーザーさんは、開発サイドの意図を
知りたいとは思わないのです。


 ユーザーさんが、
開発者のことや開発秘話を知りたくなるのは、
そのゲーム世界から目覚めて、現実に戻ってからです。


 そんなわけで、シナリオ制作には、
主人公とユーザーの「開発の思惑なんてどうでもいい」
という視点を取り入れることが必要になります。

 誤解されると困るのですが、
これはシナリオライターが開発者の意見を軽んじる、
ということではありません。

 むしろ、重く受け止め、それをどうすれば、
「どうでもいい」という主人公やユーザーのところまで、
引っ張っていけるのか、考えます。


 ここまでくれば、道半ばです。
チュートリアルに求められるシナリオの姿を、
いっきに明らかにしてしまいしょう。



「開発サイドは、
 ユーザーが遊びやすいようにと、遊びの流れを決めた。

 しかし、ここでの開発の思惑、
 この順番で遊びの要素に触れて欲しいということは、
 主人公とユーザーの目的ではない」

         ↓

「そこで、この開発サイドの思惑を、
 主人公とユーザーに関わりのあるものに加工し、
 自然な話の流れの中で、ゲームが進むようにして欲しい」


 これが、開発側のシナリオへのオーダーです。


 次は、開発側の思惑というゴツゴツしたものを、
自然に、なめらかにする過程を見て行きましょう。





(5)なめらかに、自然に、そしてワクワク!

 開発が求めている、チュートリアルのテキストは、
開発の思惑を話し言葉に置き換えたようなものではなく、

 開発の思惑を取り入れながらも、それを、
主人公や、ユーザーの事情として噛み砕いて、
自然な話の流れにしたもの、ということが分かりました。


 では、自然な流れとはどんなものでしょうか?


 開発側がバトルを入れたい場合を例にすると、
例えば、こんな感じになります。



 <開発の思惑
  「ここでバトルをして欲しい」>

      ↓……主人公&キャラの目的を付加

 <主人公の目的
  「あのキャラに認められたい。
   だから、このバトルで力を示す!」>

      ↓……主人公&キャラの魅力を提示

 <ユーザーの目的
  「バトルで勝つと
   あのキャラと仲良くなれそう」>


 これはあくまで一例です。
わかりやすくするため、シンプルな形にしています。


 この流れで、
実際にシナリオライターに求められている仕事が、
情報の加工技術だということがわかると思います。




「開発の思惑をかみ砕き、
 キャラの目的にからめた言動として描くこと」

「開発の思惑をかみ砕き、
 ユーザーが先を見たいと思うような、
 キャラやあるいは世界の変化として描くこと」


 大きくわけてしまえば、このふたつです。
「現在の状況」と「未来の状況」を主人公に絡めて考えます。


 現在、主人公は認められていないとすれば、
主人公は「認められるために戦うのだ」と言いやすくなります。

 戦って認められた先に、
人間関係の変化があれば、そこが魅力になって、
「先に進みたい」とユーザーに思わせることが出来ます。


 「今を変えたい」のが主人公で、
「未来の変化をみたい」のがユーザーなのです。


「現在」と「未来」、「主人公」と「ユーザ」ー――
この4つの要素の組み合わせを足場にして、
ユーザーの興味を引き付けるように、
開発の思惑や、伝えねばならないことを加工します。

 (2)の「よいチュートリアルの書き方」で取り上げた、
ユーザーさんがワクワクを感じるところを支える姿勢で、
情報の加工をしていきましょう。

 遊び心を忘れずに、です。





(6)ゲームシナリオライターの仕事とは?

 関連して、ゲームシナリオライターの仕事について、
お話しておこうと思います。


 ゲームシナリオライターの仕事は、
開発の思惑や設計を、物語という形に翻訳し、
ユーザーさんの心をゴールに導くことです。


 もっと簡単に言えば、ゲームシナリオライターの役目は、
ユーザーに「○○したい!」と思わせることです。

 「○○したい!」という思いを繰り返させて、
ユーザーさんを、ゲームクリアへと導きます。


 ゲームシナリオは、ゲームではないと言う人がいます。
限定的には、そうだったシナリオもあるかもしれません。

 ですが、そうした思いが、テキストやシナリオを、
ゲームシステムから遠ざけてきた原因のひとつではないかと、
私は感じています。


 シナリオは、ゲームシステムを翻訳したものです。
そこには、ユーザーさんに伝える情報と、
ユーザーさんがとりうるアクションの設計図があります。

 主人公がどこで、何をし、誰と出会い、何に向かうのか?
それは、一見してドラマが決めることのようにも見えますが、
マップやバトルの計画が決めることでもあります。

 初めてのダンジョンは短めだとか、
中ボス戦あたりから、戦略が増えるとか、
ラスボスはパーティーふたつにわけて挑むとか、
ゲームシステムが、シナリオの骨格を作っているのです。

 ゲームシナリオも、ゲームデザインなのです。





(7)さいごに

 「シナリオドリル、チュートリアル編」いかがだったでしょうか?

 業界を目指す方や、シナリオを監修される方の
お役に立てれば幸いです。


 私自身は、ゲームシナリオは、ゲームシステムを、
人間に理解しやすい形に翻訳したものであり、
ゲームシナリオもゲームシステムの一部と考えています。

 ゲームシナリオは、私にとって、
ユーザーさんの心をどう冒険させるか、その設計図です。

 でもこれは、私の一意見に過ぎません。
沢山ある選択肢の中のひとつだと思ってください。


 様々なジャンルがあり、様々な作り方があり、
そして、様々な遊び方があるのがゲームの魅力です。
 その意見も、唯一の正解ということはないでしょう。


 長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
ゲームは遊ぶのも、作るのも、考えるのも楽しいですよね。
 これからも、楽しいゲームが沢山生まれますように。

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