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2012年6月13日 (水)

キャラクターの作り方(2)

前回、「キャラクターの作り方(1)」の続きになります。

 主人公の作り方を説明しましたので、
今回はその宿敵、ラスボスをはじめとする
敵サイドのキャラについてです。



 ゲームに出てくる、主人公の適役たち――、
残虐な性質を持つ異能力者や、
恐ろしい計画を進める悪の組織や、
人々を苦しめる魔物や怪物たち……。

 悪役の設定は、どれもインパクトのあるものです。

 ゲーム開発で、こうした、
敵サイドのキャラたちの設定を作る場合、
どのように考えればいいのでしょうか?



(1)敵は邪魔者

 実は敵キャラたちも、
主人公の時と同じように考えることができます。

 主人公がユーザーの分身で、
そのゲームシステムを遊ぶために、
生み出された存在だとすれば、

 ラスボスをはじめとする敵キャラたちは、
その主人公がゲームシステムで遊ぶところを
邪魔する形でデザインされているのです。

 前回とりあげました、
色々な剣を持ち換えてアクションするゲームであれば、

 敵キャラとは、色々な剣を持ち替え、
アクションしなければ倒すことができない――と、
そんなデザインをされているわけです。

 主人公とラスボスというのは、
物語の意味合い的にも、表裏一体のような部分がありますが、
まずゲームシステムとしても、表裏一体なのです。

 この主人公でもって、このラスボスを攻略する、
だから面白いと、そういうふうに作っていくんですね。

 なので主人公の遊びさえしっかりしていれば、
ラスボスや敵キャラの設定をどうするべきか?
ということも、自ずと見えてきます。

 主人公を邪魔するように、敵は存在します。

 敵キャラとは、主人公にとっての邪魔者であり、
ゲームを止めるような「障害」をもたらすものなのです。



(2)お約束を噛んでみる

 RPGではよくあるお約束があります。

 主人公は故郷を旅立ち、
様々な地をさすらって、戦っていく……。

 多数のマップを攻略しながら遊ぶゲームだから、
このようなお約束があるわけです。

 これを、もっと噛み砕いてみると、
「なんらかの障害」によって主人公は故郷にいられなくなった、
この「なんらかの障害」を取り除くため、
主人公は様々な地で戦う必要がある――と、
こういう風に言い換えることができます。

 つまり、主人公が旅に出る理由や戦う理由は、
ほぼ、ラスボスなど敵キャラの活躍によって
引き起こされているものなのです。

 キャラクターの作り方(1)で、とりあげた例なら、
王国が溶けない氷に覆われ、時が止まってしまう――。
 これを、ラスボスや敵の仕業とするわけですね。



(3)障害とスケール感について

 でも、となりの国に行くのに橋が堕ちていけない、
というような比較的わかりやすい「障害」まで、
すべてをラスボスの仕業にするかと問われると、
そこは、絶対というわけではありません。

 ここで、ちょっと関連して……。

 ゲーム上に現れるすべての「障害」を、
ラスボスのせいにするか、否かについてお話しします。
 これにはメリット、デメリットがあります。

 メリットは、ラスボスとの「因縁」が深まっていくこと。

 世界中のあちこちが、
ラスボスのせいで大変なことになっているので、
街のNPCの声もそれに準じた形になり、
「ラスボスを倒そう!」という一本道にしやすくなります。

 デメリットは、スケール感が失われる可能性があること。

 全ての「障害」が、
簡単にラスボスに結びついてしまうので、
「因縁」がわかりやすい反面、
なにか起きてもどうせラスボスの仕業でしょう?と、
先の展開を読みやすくなってしまうことです。

 こうなるとラスボスが小物っぽく感じられて、
スケール感が損なわれる可能性があるのです。



(4)実例で見るラスボスたち

 ここで、実際に私が開発に関わった
ゲーム例を上げて考えてみたいと思います。

 「サガ・フロンティア」のアセルス編では、
主人公アセルスと、
ラスボスとなる妖魔の君オルロワージュ様は、
ゲームの冒頭、運命的な出会いをしています。

 吸血妖魔の王である
オルロワージュ様の乗る馬車に、
アセルスが轢かれ、絶命。

 しかし、
オルロワージュ様の妖魔の血がアセルスに混じり、
アセルスは半分人間、半分妖魔の半妖として、
復活してしまった……となっています。

 つまりアセルスから見れば、オルロワージュ様は、
命を奪った相手であると同時に命を蘇らせた相手であり、
望みもしない半妖という宿命を背負わすと同時に、
そんな半端者のアセルスを養女として保護してもいる、
複雑な関係にある相手なのです。

 戦う理由が二重三重に重ねられることで、
オルロワージュ様とアセルスとは「因縁」を深めており、
そこからくる「障害」が多数存在します。

 また、「聖剣伝説レジェンド・オブ・マナ」の
宝石泥棒編=珠魅(じゅみ)編では、
主人公となる真珠姫と瑠璃くんは宝石を核とする、
珠魅という種族であり、
その宿敵として登場するのは、
サンドラという珠魅の核専門の宝石泥棒です。

 真珠姫と瑠璃くんと宝石泥棒サンドラの関係は、
種族として狩られる側と、狩る側という関係であり、
個人的な「因縁」が強いわけではありません。

 しかし、珠魅の仲間を探す旅の中、
「幾つかの事件=サンドラにより起こされる障害」を
経験し、目撃者として生き残ってしまう
真珠姫と瑠璃くんには、
サンドラへの「因縁」が深まっていくのです。

 チームの求めるカラーにもよりますが、
私自身はどちらかというと、ラスボスとの「因縁」が深く、
「障害」自体も、そこからもたらされるものが多くある、
というような、人間関係が濃厚なものを好みます。



 ゲームにデザインされた障害全体のうち、
どの程度ラスボスがらみにし、どの程度他のものにするかは、
ゲームの開発規模によります。

 開発規模が大きく、世界観もスケールを大きくしたい、
といった作品になればなるほど、
主人公の前に立ちふさがる組織や人物は、
増やさねばなりません。

 ラスボスに忠誠を誓う組織や、
ラスボス側でも主人公側でもない独自の思想を持つ、
第三の人物などなど、様々な人や組織を絡めて
大きな物語を描いていくことになります。

 一方、開発規模が小さく、
世界観を箱庭的にコンパクトにしたい作品は、
主人公の前に立ちふさがる組織や人物をしぼって、
限られたキャラクター数で、因縁が濃くなっていくよう、
物語を組み立てねばなりません。

 すべてが奴につながってる……というような感じです。



 前述の、アセルス編と宝石泥棒編は、
大規模開発にもかかわらず、
ややコンパクトにキャラクター配置をしています。

 これは、妖魔や珠魅の独特の世界を、
色濃くしたかったためです。

 大規模開発であったサガフロとレジェマナには、
妖魔や珠魅以外にもたくさんの魅力的な種族たちがいて、
それぞれに独特の世界を築きあげています。

 そのバックグラウンドの多様性の存在があるため、
妖魔と珠魅の物語は、コンパクトにまとまりつつも、
スケールの感じられる作品となっているのです。



(5)事件はすでに起きている!

 ここで、話を戻しまして……。

 開発規模や求められるテイストにかかわらず、
主人公が行動せざるを得ないという理由は、
ラスボスや敵組織の設定に絡めるものです。

 今まで行動しないですんでいたのに、
今まさに行動しなければならないのだ!
という状況の変化――。

 その変化の多くは、ラスボスを始めとする、
敵キャラクターたちの行動を原因としているわけです。

 つまり、ゲームシナリオでは、
多くの場合は、まず、事件は既に起こっています。

 犯人は先んじて動いており、
主人公はその全貌を知らぬまま状況に流され、
急き立てられるように旅立って行き、
少しずつヒントを集めて、真相に近づいていくわけです。



(6)主人公はなぜ、走り続けるのか?

 最後に、ラスボスや敵たちの目的――、
その設定の仕方についてお話しします。

 主人公より先んじて、
敵キャラやラスボスたちがアクションし、
障害となる事件を様々に
引き起こしていることがわかりました。

 では、彼らラスボスたちは、なにを目的に、
アクションを起こしているとすべきでしょうか?

 みなさんが真っ先に思い描く、
ラスボスの目的は、世界征服ではないでしょうか?
もしくは、人々の命を使って強大な魔力を得る、
というような、禁断の力。

 これらは、半分正解です。

 実は、世界制服とは誰にとっても困ることで、
ことさら主人公だけが手を上げて、
ラスボスと戦っていこうという理由にはならないのです。

 ラスボスを始めとする敵キャラの目的に、
一番当てはめたいものは、はっきりしています。

 それは、敵キャラの目的そのものが、
「主人公にとって」どうしても困る、というものです。

 なので敵キャラの目的をさらに掘り下げ、
「主人公だからこそ我慢がならない!」となるような、
主人公にとって着目せざるを得ない要素を足します。

 よくある形ですと、
世界征服のために犠牲になる人物が必要とし、
それを主人公の家族や友人にする手法です。

 「誰もが困る目的」へ、突き進むラスボス達。
そして、その「困る目的」へといたる手段の中に、
「主人公が個人的に徹底的に困る要素」
を足していくわけです。

 こういった設定にすれば、
「人間としての一般的な怒り」と「主人公の個人的な怒り」を
二重に重ねていくことができるのです。

 世界の命運を、儚げな少女が背負いやすいのは、
主人公の少年たちを、心ごと感情ごと動かし続けるための、
からくりのひとつなわけですね。

 基本的に、ラスボス側の目的の設定は、
「主人公が最後まで情熱や怒りを持って走り続けられる」、
そんな感情を揺さぶるものであるべきです。





 以上で、ゲームにおける
「キャラクターの作り方」のお話を終えたいと思います。

 非常に簡単にですが、今回は二回に分けて、
主人公とラスボスを始めとする敵の設定について
お話させていただきました。

 わかりやすくするため、単純な例を取りあげましたが、
実際のゲーム制作では、「こんな人間を描いて欲しい」とか、
「こんな驚きがある物語にして欲しい」などなど、
その作品ならではの様々なオーダーが乗っかってきます。

 しかし、どういった場合でも、
ゲームシステムを無視することは出来ません。

 ユーザーさんに、
どうやって遊んでもらいたいか?ということ。
遊びのアイデアを詰め込まれたのが主人公です。

 その遊びとマッチングした設定をつけ、
気持ちよく世界に入れるよう情報出しでリードしつつ、
次の冒険について、そのまた次の冒険について、
楽しく、自然に進められるようにしていく……。

 そんな設定作りが、求められています。

 遊んでこそのゲームです。
萌え要素や外見だけで、
キャラクターを作っているのではないのです。



 これからゲーム開発現場に入られる
若き開発者さんたちが、どんなキャラクターを、
生み出していくのか、楽しみにしています。

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