お仕事拝見!ゲーム開発の流れ(1)
みなさんは、お父さまやお母さまの働く職場に
見学に行ったことはありますか?
私は、すごく行きたかったんです。
父が、宇宙開発の現場の人だったので、
その仕事を見てみたかったんです。
子供心に、宇宙は憧れであり恐怖でした。
見渡すかぎり、吸い込まれそうな夜の闇が
どこまでも続いていて、
足元もおぼつかない無重力の空間で、
遠く離れた地球と連携して様々な作業を
やっていくなんて。
なにもかもが未知の世界です。
そんな凄いことに、
一体どんなチームで、どうやって挑んでるのかな?って、
興味津々でした。
結局、職場見学の夢は叶わなかったのですが、
後にSFゲームのために、
宇宙開発関係の方々にお話を聞く機会をいただけました。
そのゲームは残念ながらゴーサインが出なかったんですが、
良い思い出になっています。
というわけで今回は、
ゲーム開発現場の見学会みたいなことが
出来たらと思ってます。
企画が立ち上がるゲーム開発の始まりから、
このメンバーで作っていくぞ!という、チームの発足まで。
大ざっぱではありますが、
会社としてのゲーム開発の流れがわかると思います。
RPG開発中心の話になりますので、偏りはあると思いますが、
「そういう開発もあるんだなあ」という気持ちで、
見学して頂ければと思います。
少々長くなってしまうかもしれませんが、
全二回に分けてまとめていこうと思います。
※この記事は、
ツイキャスで放送したもの(2012年3月29日放送分)を
ベースに文章化したものになります。
音声がよい方は、こちらをご利用下さい。
・3月のツイキャス(前編)
・3月のツイキャス(後編)
(1)ゲームは誰からはじまるか?
みなさんは、ゲーム開発ってどう始まるか、わかりますか?
チームのボスみたいな有名クリエータさんとかベテランさんとかが、
「俺、ひらめいた!」みたいなことで、自由にはじめる感じがしませんか?
私は、てっきりそうだと思っていました。
天才肌の人が、急にアイデアを思いついて立ち上げるような。
もしくは、すでにあるシリーズを大切に守っていく。
そのために、ずっと定期的にそのシリーズを作り続けているような。
前者は、新しいゲーム。
後者は、既存のゲームの継続です。
閃きがない限りは、シリーズもので安定して作ってるのかな?
って思っていました。
いずれにせよ中心人物となる有名クリエータさんやベテランさんたちが、
自分達の裁量で企画を立ち上げてやっている、そんな感じです。
そういう場合もあるとは思います。
でも、厳密には、違う事の方が多いんです。
ゲームを作ろうと言い出すのは別なポジションの人です。
では、その言い出しっぺがどういう方かわかるでしょうか?
正解は、経営者さんです。
経営サイドの人たちですね。
意外かもしれませんが、開発者さんではないんです。
「そろそろ開発にかからないと、
売る商品がないので来期が大変だぞ」
みたいな。
そういった流れで、
「さあ、ゲームの企画を立ち上げよう!」となるんです。
ゲームを商品として捉えています。
会社を維持していくものとしての、ゲーム開発です。
まさに経営からの目線ですよね。
これが新しい企画を、新しい商品を作ろうという、
その最初のアクションになります。
会社としてあるのですから、
当たり前と言えば当たり前なのですが……、
種を蒔いて、育てて、収穫して、収穫物を売ってお金にして、
そのお金で、また種を蒔いて育ててと、
そういうサイクルで、ゲーム会社も動いています。
一介の開発者からすると、ちょっと雲の上の話ですが、
ゲームの企画のはじめの一歩は、経営から始まるのです。
(2)ゲームは誰が考えるのか?
ゲームの第一歩は、「作って良し!」といような、
そんな天の声が経営サイドから
聞こえてくるところから始まりました。
そして、いよいよゲームの中味の話になります。
「どんなものを作ろう?」ということを決めていきます。
では、このゲームの中味って、誰が考えるのでしょうか?
ここから一般の開発者さんも参加して、
チームになって、色々アイデアを出していくような
そんなイメージもあります。
ですが、この段階ではチームは作られません。
なので、まだまだ雲の上の話になります。
「新しいゲームの企画を立ち上げよう!」という天の声。
まず、この声が聞こえる人と、聞こえない人とがいるのです。
ほとんどの場合、企画の募集は密かにされたりします。
もしくは企画書を書ける資格がある人というのが、限られています。
いずれにせよ新しいゲームの企画を、
全社員から平等に募る、ということはたいへん稀です。
その理由は様々でしょうが、
「そろそろ売る物がなくなるから、新しいゲームを作ろう」
という流れが、やはりあるのではないかと思います。
つまり、余裕があるわけではないのです。
いついつまでに売らないと、これくらいのお金にしないとと、
そういうハードルがあるんですね。
即商品となって即売れる、
つまりお金になって会社を維持できる、
そういう企画が欲しいということになってきます。
広く企画を募集しない理由のひとつは、
ここにあると思います。
それで、こうした、
新規ゲームを立ち上げていいとの情報をキャッチできる人、
またその情報をキャッチした上で、
企画発表の場所に応募する資格がある人は、
相当に限られます。
つまり、それが(1)で少しお話しした、
有名クリエータや、ベテラン開発者さんなわけです。
この人たちが中心人物となっていきます。
ゲームは誰が考えるか?
それは多くの場合、実績のある開発者に限られます。
(3)企画書ってどんなもの?
天の声が聞こえ、
ベテラン開発者さんたちがゲームを考えることになりました。
ここで書かれるのが、『企画書』というものです。
こういうゲームを作りたい、これを作らせて欲しい、って
アピールする資料です。
アピールする、ということ。
これがなかなか難しいことになります。
どう難しいのかお話する前に、
まずは、ざっくりと企画書の内容を説明しますね。
企画書の書き方は様々ですが、
大抵はじめの方のページで、ゲームの概要を伝えます。
どんなジャンルなのか?、ハードはなにか?、
ひとり用か、二人用か?、何人で遊ぶのか?、
ターゲット層はどこか?、などなどです。
次に、ゲームの一部分にズームします。
このゲームならではの遊び方、この作品でしか味わえない面白さ。
そういった「売り」の部分を、しっかり伝えます。
そして、今度は引いて、ゲームの全体像を見せます。
どういう流れで、ゲームが進んでいくのかを紹介します。
ユーザーがどんな情報を得て、
何を基準に決断し、そこでどういった違いが現れ、
その結果、どんな遊びが繰り返されて、
あるいは、積み重ねられていくのか?
そういうものがわかるように、フローなどをつけます。
また、説明図の他にも、ゲームの魅力となる、
キャラクターやマップ、アイテムのイラストも
挿入する場合もあります。
でもその他にも、社内で企画を通すためには、
重要な要素がひとつあります。
アピールしなければならない要素です。
この要素は、おそらく学生さんが
ゲーム業界に就職する時に作る企画書にはない要素です。
それがなんだかわかるでしょうか?
ヒントは、企画書をアピールする先の人たちです。
この企画書を判断するのは、会社のお金を管理してる人たち、
経営側の方々です。
正解は……。
「このタイトルが、どう宣伝できるか?」です。
「どう宣伝できるのか?」は、つまり「どう売っていけるのか?」です。
これをまったく気にしない企画書というのは、なかなかないです。
たとえばですが、開発内に有名な方がいて、
そのお名前だけで宣伝効果が期待できる、
などの宣伝材料が揃っていれば、
あえて宣伝について触れない場合もあるかも知れません。
でも、そうでない場合の企画書では、
宣伝の仕方、「どうユーザーさんに知って貰えるのか?」
というこの部分が、とても大切な要素になります。
なぜかというと、
今は、情報が溢れに溢れているからです。
個人が収集出来る情報、処理できる情報を、
はるかに越えた情報が毎秒飛び交っています。
そんな情報の大洪水の中で、
「新しいものをどう宣伝して行くのか?」ということは、
とても難しい課題です。
どんなに良いものを作って発売しても、
宣伝がうまく行かなければ、その存在を知り得ません。
購入するかどうか、その検討すらしてもらえないのです。
でもそれは逆に言うと、知って貰えさえすれば、
それだけで、買って貰うチャンスが増えるとも言えるのです。
だからでしょうけれど、
「ゲームの面白さは二の次だ!」「今は宣伝だ!」と、
はっきりおっしゃる方もいらっしゃいます。
それくらいに宣伝というものには、
クリエイティブなアイデアが必要とされています。
宣伝自体が、商品の魅力のひとつなのです。
そこで企画書も、そうした面をはっきりアピールします。
ゲームの良さが後回しにされてしまうことがある……。
それよりも宣伝計画、宣伝材料がはっきりしていることが、
重要になる場合もある。
ここが、学生さんが就職の為に作られる企画書と違う点です。
商業でのゲームの企画というのは、非情にシビアです。
しかし、ゲーム開発会社なのですから、
経営陣に、開発出身の方がいらっしゃることもあります。
そういう時には、ゲーム性で好感触となる場合もあります。
でも全員が全員、元開発者ということがあったとしても、
その立場は、お金を管理する経営者ですから、
開発者寄りの意見だけで物事を進めるわけにも行かないのです。
面白い=だから売れる、とは限らない。
この難しさがあります。
ゲームに限らず、新規商品の怖いところです。
宣伝以外にも、プロの企画書には書かれる要素があります。
開発期間、必要な開発者の人数などです。
つまり、開発にかかるコストを予想できるような資料です。
どういうことかというと、
「今の会社の状況で開発可能だ」と思わせるためのものです。
夢のようなことを言っても仕方ないので、
宣伝に続いて、ここも現実的なものとなります。
開発内部の企画書というのは、このように、
純粋にゲーム性やその楽しさだけでは判断されません。
他社のタイトルの売り上げを引き合いに出したりして、
あれの人気を取ってこれる、あれに乗っかれる、
そういうところをくすぐっていって、
「これだけ売れるんだ」とイメージさせる場合もあります。
最終的には、
「開発した方がお得なんだ」というところまで、
持っていきたいのです。
これが企画書に書かれる要素です。
面白いゲームだという説明があり、
さらに「作れるんだ、儲かるんだ、お得なんだ」と畳み掛けます。
企画書づくりは、経営サイドとのバトルとも言えます。
経営サイドの弱点をつくように企画書の攻撃力を高め、
企画を通していくことになります。
少し脱線します。
こういった商品目線で進んでしまう形が、
良いか悪いかは置いておいて……。
ゲームのアイデアだけでは突破できない時。
お財布を握る人たちに、どうやったら勝機ありと思わせられるか?
そこが肝心なとなってくると、どうなるかというと……。
「それなら、過去発売したあのタイトルにしちゃえば?」
って、そんなふうな、囁きがどこからか聞こえてくる場合もあるのです。
タイトルを冠してさえいれば、中味は多少変えてもいいよ、と。
こういうことが、「シリーズ物を乱発して!」なんて、
ユーザーさんに叱られちゃうことに繋がるのかもしれません。
けして開発者が、「なんでもかんでもシリーズ物でいいや」
と言っているわけではないと思います。
なんとなく、シリーズに頼ってしまうからくり。
タイトルのみ残して開発者は総取っ替えしちゃうようなからくり。
そういうものが、透けて見えてきたかと思います。
でも、会社の資産としては、シリーズを守るのは意味があります。
継続は力ですから、シリーズというのは、誇りでもあります。
面白さだけに賭けるような開発体制ではないことや、
シリーズ物を作りがちな環境には、賛否両論あるとは思います。
商品としてのゲーム、作品としてのゲーム。
それが、経営者開発者をまき込んで、せめぎ合っています。
ゲームの誕生、企画の立ち上げには、そんな背景があるんです。
今回は、経営サイドの一声から始まる開発の話から、
開発内で作られている企画書について触れました。
次回は、「開発チーム」について、その成り立ちなどを
お話しさせていただこうと思います。
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