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2012年3月 2日 (金)

声のあるゲーム、声のないゲーム(2)

前回、「声のあるゲーム、声のないゲーム(1)」の続きです。



(3)声によってRPGが得たもの

時が移ろい、解像度や容量の問題が改善され、
グラフィックも2Dのドット絵から、
3Dのポリゴンやイラストそのままのキャラ絵へと
劇的に変わっていきました。

そしてそこに、部分的とはいえ、
声優さんの声さえも、入ってくるようになりました。


では、声がつくようになって、
RPGのメッセージはどう変わったのでしょうか?

これは大きく、ふたつあると思っています。



 1、キャラ情報の補強

 まず、年齢や性別は、
 声優さんが確実に表現してくれるようになりました。

 年老いた声というのを演じていただけるため、
 「~じゃ」と、語尾につける必要がなくなったのです。


 女性の声、男性の声も、聞けばすぐにわかるので、
 「断定口調で男性のように喋る女性」や、
 「ですます調で、女性のように優しく喋る男性」が
 よりわかりやすく表現できるようになりました。


 声がなかった頃は、台詞は記号的でした。
 その台詞がメッセージウィンドウに表示されてすぐ、
 老人だ、女性だ、商人だ、とわかってしまう
 そんな素直さが好まれていました。

 そのため、
 見た目で伝わる素直な部分を裏切るようなキャラ、
 見た目は少年で喋り方も少年っぽいけど、実は女性、
 というようなキャラは、主要人物でしか許されなかったのです。

 しかし、声があれば、そうした個性的なキャラ立ても、
 耳で聞く情報が足される分、ずっとわかりやすくなります。

 そのため、主要キャラだけではなく、
 サブキャラや、それまで没個性に徹していた町の人にも、
 そうした声によるキャラ立ての恩恵が波及するようになりました。
 
 声があることによって、
 描き出せるキャラクターの幅が増え、
 ゲーム世界の住人たちが、一層表情豊かになったのです。



 2、感情の搭載

 そして、もうひとつが凄いのですが……。

 声がつくことで、
 格段に自由になったものがあるのです。
 なんだかおわかりでしょうか?




 それは、感情です――。



 「ありがとう」

 例えば、このたった五文字の台詞でも、
 「泣きながら」「怒りながら」「はにかみながら」と、
 声で感情を色分けしていくことができます。


 声がなかった時代は、
 そうした「文字通りの意味以上のニュアンスを含む台詞」
 は、三点リーダー「……」や、ダッシュ「――」、
 あるいは句読点の助けを借りつつ、
 その台詞に持っていくまでのイベントシーンを、
 非情に丁寧に作り込まねばなりませんでした。



 そのシーンの、その台詞を、その感情で、
 確実に脳内再生させる――。

 それを、声の助けがない中で、
 読む文字だけでやってみせる――。



 これは、文字数や使える漢字も充分ではない
 当時の開発環境では、とても難易度が高いことで、
 たびたび挑めることではなかったのです。


 そのため、やると決めたら、
 ユーザーさんが肝心のシーンでその意味を
 取り違えてしまわないように、
 かなり気を遣って、流れを作ったものでした。


 私の場合は、聖剣伝説レジェンドオブマナの
 宝石泥棒編、ある人物の最後の台詞です。

 ここでは、音楽の力がとても大きかったです。



 ですから、声優さんの声という表現が加わった時、
 それはものすごい変化だったのでした。

 声優さんの声がついたその瞬間から、
 RPGの台詞は、生まれ変わりました。

 様々な制限の元、工夫を重ねて研ぎ澄まされてきた、
 デフォルメされた記号だらけの文章ではなく、
 人間の声がつく、生々しいものになったのです。




 デフォルメ台詞にあった、そぎ落とされた美学。
 没個性の潔さ。



 それらと、声のある台詞とは明らかに違います。

 これは革命と言ってもいいくらいの衝撃で、
 実際、開発現場でも、この変化に気づき、
 「もう、自分達の手では台詞を書ききれない」
 と、思った方も多かったのです。


 言葉が感情を裏切っても構わない――。

 これは、開発を戸惑わせる、
 高スペックのものではありましたが、
 声が与えてくれた、とても大きな自由でした。

 これにより、台詞の自由度が格段に上がり、
 RPGの中の台詞は、ドラマや映画アニメーションの表現に、
 一段と近付くこととなったのでした。



(4)ユーザーさんが得たもの

「開発側が得た、声があるメリット」をあげてきましたが、
ここでは、「ユーザーさんから見た、声があるメリット」を
整理したいと思います。

RPGにとって、声優さんの声がつく利点は沢山あるので、
大きなポイントだけ抑えておきますね。



 1、キャラの共有

 まず、ひとつめは、キャラの共有。
 やはり一番の良さは、これではないかと思います。

 声優さんの声がつくことで、そのゲームを遊ぶみんなが、
 そのキャラを、より明確に共有できるようになりました。


 「声がつくことで、想像力が奪われたのではないか?」
 という方もおられるのですが、声がついたからこそ、
 休日をどう過ごしてるか?とか、
 宿屋ではこんな会話をしているのかな?とか、
 より細かい部分に想像力が働くようになったと思います。

 そのキャラが例えば、
 「クラスにいたらこんな感じかな?」というところまで、
 想像しやすくなったのではないでしょうか?

 声優さんの声質、喋り方のテンポ、感情のノリ、
 このあたりを掴んでしまうと、
 そのキャラを頭の中で動かすことが容易になります。

 これは、とてもいいものだと思うのです。


 「一本道シナリオとフリーシナリオについて
 でも少し触れたのですが、
 様々なことに心や気力を奪われる、忙しい現代人にとっては、
 遊んだ人それぞれに体験が違ってくるフリーシナリオよりも、
 一回遊べば、みんなと体験を共有できる、
 一本道シナリオを好む傾向もあります。


 そういう視点で見ると、行間が大きいシナリオよりも、
 声でキャラクターがばっちり固定化されるものの方が、
 友だち同士でも話が通じやすく、盛り上がりやすい、
 そういった利点があるのです。



 2、感情がわかりやすい

 次に、ふたつめ。
 キャラの感情がわかりやすい、というのがあります。

 聴覚情報が増えるということは、
 それだけで、わかりやすさが倍増するものです。


 例えば、「顔で笑って心で泣いてのシーン」。

 台詞だけでやる場合は、
 まずはさっぱりと、「あばよ!」なんて書いておき、
 その後ひとりきりになってからに、
 「ふう……我ながら、素直にゃなれんね」
 みたいな、フォロー台詞を入れたりします。


 でも、こういう「言葉が感情を裏切るシーン」は、
 どうやっても、「あっさり、笑って別れただけ」であり、
 「心で泣いて」みたいな複雑な心境を、
 読み拾えない人たちが出てきてしまうものなのです。

 なので、ちょっとやり過ぎくらいに、
 「本当は寂しい」とか「辛いんだ」とかいう気持ちを
 書かなくちゃならないこともあるのですが、
 ここに声が入れば、声として感情が表されるため、
 読み間違いは、ほぼ、なくなります。


 ひとの抱く感情というのは、たいへん複雑です。
 そこは、なかなか素直な言葉では現ません。

 好きな人に、好きって伝えるだけでは、
 少女漫画が盛り上がらないように、
 好きなのだけれども、それを言えないもどかしさ、
 意地悪したり、素っ気なくしたりしてしまう、
 そんな、心とは裏腹な態度が、人間です。

 繊細な心の動きというのは、
 読む言葉だけで表現してゆくよりも、
 耳で聞く声でも表現していく方が、とてもわかりやすいのです。



 3、学習情報のハードルが下がる

 さいご、みっつめは、お勉強用語の覚えやすさです。

 ファンタジー要素の強いゲームだと、
 その世界を、他にはない独特のものに仕上げるため、
 様々な専門用語が出てくるものです。

 特殊な名前や言葉使いなどは魅力でもあるのですが、
 正直な話、カタカナの長い名称や、難しい漢字が多いと、
 読めなくなってきませんか?



 少し話は逸れますが……。
 昔、アニメ雑誌に連載されていた、
 首藤剛志氏の、
 「永遠のフィレーナ」という小説がありました。
 イラストは、高田明美さんでした。

 「フィレーナ」というのは主人公の名前です。
 ところが、この主人公の名前を、
 間違って覚えていた方々が結構いらっしゃいました。

 主人公の名前なんてよく目にするものを、
 間違うはずはないと思われるかもしれませんが、
 そうでもありません。

 私も、「フィレーナ」と「フィナーレ」とが、
 よくこんがらがっていたものでした。


 しかし、ここに声優さんの声があると、
 話は別です。

 耳で聞いた言葉を、間違えて覚えることは、
 まずありません。

 声優さんの聞きやすい声のガイドがあれば、
 目で読んで、耳で聞いて覚えることが出来るので、
 難しい専門用語も、格段にわかりやすくなるのです。




今回は、声があるゲームの利点を、
開発者側と、ユーザーさん側とでそれぞれ考えてみました。

次回、最終回では、これらの利点を含めても、
声があることで、失われたものがあるのかどうか?
――そこを、考えていきたいと思っています。

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