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2012年2月18日 (土)

な~にいってんだか♪

10年以上前、
吉岡秀隆さんが出演されている、果実酒のCMがあった。

それは一連のシリーズもののCMで、
地方を気ままに旅してる彼と、それを待っている彼女の物語。

はじめの映像は、自然に恵まれた風景。
そこで、地元の人と果実をもいでる爽やかな彼。

その映像の上に、彼氏の柔らかい声がゆったりと流れてくる。
内容は、旅先から彼女に宛てた手紙らしい。
地方での暮らしのことなど、軽く触れられている。

そして最後は決まって――。

  「君に似たお酒です」

彼氏の声がそうつぶやいたところで、映像は切り替わる。

そこは、都会のマンションの一室、陽の当たる部屋。
グラスを一人傾けてる、彼女が映る。

  「な~にいってんだか」

彼女は、ふふっと笑う。
たぶん彼が旅先から贈ってくれたお酒を飲みながら。


ちょっと記憶があやふやだけど、
大体、こんな感じだったように思う。

私は、このCMが好きだった。
離れ離れのふたりなのに、軽やかで明るい。
そこに広がりや、ドラマが感じられた。

驚くような刺激や目をひく変化あるような、
そんな類のCMじゃなかったけれど、
いつもでそこに流れているような、
ちょっといいなと思わせるような日常を切り取った、
自然なドラマだった。

たぶん、当時の私にとっては、
ちょうどいいドラマだったんだと思う。

だからこのCMのシリーズが終わった時、
少し寂しかった。

このさりげないドラマが終わってしまうなら、こうかな?
と、なんとなく思っていたものはあった。

私が勝手に考えて、期待していた最終回――。


映像は、いつもどおり地方のどこかを旅する彼。

いつもどおり、彼の柔らかい声が、彼女宛の手紙を読む。
でもそこには、いつもの決め台詞、「君に似たお酒です」がない。

彼の声が消えて、映像は、都会のマンションの一室。
彼女は、手紙を手に「どうしたのかな?」と不安げな顔をしてる。
テーブルには空っぽのグラス。
いつも彼氏が贈ってくれるお酒もない。

と、ピンポーンとチャイムが鳴る。
彼女がドアを開けると、お酒を持った彼がいる。

  「ただいま」

彼女は笑って。

  「おかえり」

最後のカットは、
いつも彼女がひとりで座っていた場所。
今は、ふたりがグラスをあわせて乾杯してる。


こんな風に終わればいいなあ、と思っていた。
そしてその最終回を見て、
「これから一緒に暮らすのかな?」とか、
「今度はふたりで旅に出るのかな?」なんて
あれこれ想像したかった。

物語は閉じて欲しい――。
私は、物語を書く職に就いてはいるけれど、
ついそう思ってしまう。
登場人物たちにも、穏やかな人生を願ってしまうから。

ともあれ、いつかまた、
あんな爽やかで軽やかなCMシリーズが、
見てみたいと思う。

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