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2012年2月 7日 (火)

サガ・フロンティア~アセルス編~回顧録・その3

サガ・フロンティア~アセルス編~回顧録・その3

前回、「サガ・フロンティア~アセルス編~回顧録・その2」から
だいぶ時間があいてしまいましたが、
引き続き、アセルス編について昔語りをしたいと思います。
今回が最終回になります。



(7)もうひとりのヒロイン

アセルス編にはもうひとり、ヒロインがいます。

根っこの町に住むお針子ジーナです。
彼女は、人間の少女ですが、親方について
妖魔たちの衣装を仕立てる仕事をしています。

アセルスの目覚めを待ち続けたジーナは、
アセルスに憧れをいだいています。

ここで本来、王道的な展開であれば、
アセルスは白薔薇姫ではなく、ジーナを連れ、
妖魔世界からの脱出を試みるはずです。

アセルスとジーナという組み合わせであれば、
「一緒に、人間の世界に戻ろう!」という目的が
はっきり持たせられます。

そしてまた、
「気に入ったのならジーナをお前の寵姫にすれば良い」
というオルロワージュ様への反発、
妖魔たちの、永遠ではあるけれど
(人間からみると)歪んだ愛の形への拒絶と、
真の愛のあり方への物語も描けます。

では、なぜ、アセルス編は
このような王道展開を取らなかったのか?

ここに私のやりたかった、テーマがあります。

これからの時代、
ピンチの女の子を助けるのは男の子ではなくて、
自分自身――。

かっこいい女の子が助けに来てくれる……
というわけでもないのです。

ジーナにとってアセルスが王子様ではないように、
アセルスにとってもまたジーナは王子様ではありません。

ジーナもアセルスも、
自分の手で自分自身を助けなければならないのです。

実はジーナは、自分を救う手がかりを見つけています。

ジーナはアセルスと同じように
両親のいない寄る辺なき身でありながら、
手に職を持つことで、妖魔の社会に
ささやかな居場所を作ることに成功しているのです。

一方、アセルスは
オルロワージュ様に命を救われ、彼の養女として、
妖魔の社会に居場所を与えられながらも逃げ出し、
結果、自分自身まで見失ってしまいます。

現実を受け入れ、おとなになる覚悟を決めた少女と、
現実を拒み、子供に逆戻りしてしまった少女。

ジーナとアセルス、
ふたりは同じ悪夢にさらされながらも、
対照的な存在なのです。

そのためふたりはお互い心惹かれながらも、
その歩む道はけっして交わることのない、彼方にあります。

アセルスを見守りながらも、
けっしてアセルスと共には歩めない――。

そんな、一抹の寂しさと、
過酷な現実を生きる逞しさを持った
ジーナという少女の存在が、
アセルス編をわかりやすい王道モノとは
違った味わいにしているのです。

ゲーム本編ではアセルスの物語を伝える語り部であり、
傍観者であったジーナ――。

そのジーナとアセルスの絆の行き先は、
エンディングで語られることになるのです。




(8)ゲームだからできる未来

そうして、ジーナではなく白薔薇姫を連れて
アセルスは妖魔の世界を後にします。

そこにオルロワージュ様の配下である
黒騎士たちの追っ手が次々とやってきます。

先輩方のご助力のおかげで、
妖魔たちのバトルも、たいへん魅力的なものとなりました。

黒騎士による追撃イベントでは、
イトケンさんこと、伊藤賢治さんの素晴らしい楽曲も
あわさって、厳しくも華のある、
スリリングなバトルが体感できます。

アセルスを主人公に選んだユーザーのみなさんは、
この追っ手襲撃イベントに怯えながら、
選択を迫られたことと思います。

人間として闘うか、妖魔として闘うか――と。

半妖として、人間と妖魔の特徴を兼ね備えたアセルスを
どう戦わせるのかは、ユーザーの皆さんに委ねられています。

そして、そのアセルスの生き様が、
後のアセルスの未来を決めることになるのです。

オルロワージュ様の追っ手を撃退し、
アセルスは白薔薇姫の手を引き、世界をさまよいます。

ここではないどこかを求めて、
悪夢の中を往くような旅だったでしょう。

そして、その逃避行の中でアセルスは、
人間界にはもう自分の居場所はどこにもないと、
思い知らされます。

その深い孤独や損失感がアセルスの心に、
いっそう白薔薇姫への愛着を生み出していきます。

ところが、アセルスはある時、唐突に、
白薔薇姫を守るという意味を失ってしまいます。
残されたのは、無力で愚かな自分だけです。

――はたして自分は、
――白薔薇姫を守るために戦っていたのか?

アセルスは勝手にそんな気になっていただけで、
白薔薇はアセルスに対して、なにも望んではいませんでした。

なぜなら、最初から助けを待つ姫君は白薔薇姫ではなく、
アセルス自身だったからです。

そんな白薔薇姫にも、ひとつ夢がありました。
彼女が闇の迷宮で見せた覚悟から、それは読み取れます。

白薔薇は、ただアセルスに、
アセルスらしく生きて欲しかったのです。
それがアセルスという半妖に魅せられてしまった、
白薔薇の心からの願いでした。

アセルスがどんな道を選ぼうと、白薔薇は応援したでしょう。

こうして白薔薇姫を自由にするという、
分かりやすい目的にすり替えて、
自分の反発心をカモフラージュしていたアセルスは、
なにもかも失ってしまいます。

すべてを失ってしまってアセルスはようやく、
オルロワージュ様と向き合う覚悟を決めるのです。

 あなたにもらった命ではあるけれど、
 私は、あなたの後継者にはならない、と――。

現実の世界でも、社会にでるとき、
子供たちは必ずこうした真実に直面します。

「大人が悪い、だから世界はこうなんだ――」

今までは、どこかの誰かに向けて、
そう言っていればよかっただけの問題が、
いつの間にか自分の肩にのしかかってくるのです。

「この世界が嫌なら、自分の世界を切り開け――」
「新しい世界を、その手で作れ――」

これは父親との戦いであり、
また、自分を育んできた旧世界との戦いです。

子供という殻を脱ぎ捨て、
新しい自分に、大人の自分に生まれ変わるために、
誰もが通る道なのです。

アセルス編は、マルチエンディングです。
人間END、半妖END、妖魔ENDの
三種類が用意されています。

オルロワージュ様との避けられない闘いを終えた後、
アセルスがどんな結末を選ぶのか?

アセルスを影ながら見守ってきた
お針子ジーナとの絆の行く末はどうなってしまうのか?

そして闇の迷宮に囚われた白薔薇姫は?

それはユーザーの皆さんの手に委ねられています。

色々書かせていただきましたが
私が妖魔世界やアセルスたちにどんな思いを籠めたところで
それはあくまで製作過程での思惑であって、
物語の解ではありません。

ゲームは開発終了と同時に開発者の手を離れ、
遊んでくださったユーザーの皆さんのものとなります。

ゲームの物語は開発者の脳内ではなく、
ユーザーさんの心の中で完成されるものです。

私は当時も、そして今でも、
アセルスたちの物語の行く末は、
ユーザーの皆さんに委ねたいと思っています。



(9)失われた物語

アセルス編には没になったエピソードが沢山あります。

 ・ジーナの血に惹かれながら吸血を拒むアセルス
 ・零姫なき後、寵姫を束ねる聖母のような寵姫長
 ・焼却炉からの脱出イベント
 ・イルドゥンとラスタバンによるアセルス監視イベント
 ・ナシーラ博士によるアセルスの人体実験
 ・ヌサカーン先生の診察イベント
 ・ゾズマのパートナーの下級女妖魔
 ・アセルスに魅了されてしまう下級妖魔
 ・白薔薇と瓜二つの妖魔、紅薔薇姫

などなど……。
少しだけですが、その内容をご紹介したいと思います。


<焼却炉の脱出イベント>

オルロワージュ様の元から
白薔薇姫を連れ脱出するイベントのひとつとして考えていました。
脱出方法も複数あるところがサガらしいですよね。

妖魔の世界に不要な醜いものを焼き捨てる焼却炉。
そこをくぐり抜ければ、別な世界に行けると聞いた
アセルスは白薔薇姫を連れ焼却炉に飛び込みます。

激しい炎に襲われ、
アセルスと白薔薇姫はいったん灰になってしまいます。
しかし、その肉体は妖魔なので再生します。
生まれ変わるイメージです。

妖魔の礼装は焼け落ちてしまったままなので、
ふたりは一糸まとわぬ姿となって、
別な妖魔の君に衣装をもらいにいきます。

そして、そこから、
半妖であるアセルスの新しい生き方を模索して、
さまざまな妖魔を訪ねていく旅が始まる予定でした。

アセルスと白薔薇姫の裸キャラ(!)まで
作っていただいていたので、
これが入らなかったのは非常に残念でした。


<紅薔薇姫のエピソード>

紅薔薇姫のエピソードも心残りです。
闇の迷宮で白薔薇姫を失った後、
アセルスのもとにひとりの女妖魔が送られてきます。

彼女の名は、紅薔薇姫――。
白薔薇姫に瓜二つの容姿を持った妖魔です。

彼女、紅薔薇姫は、オルロワージュ様が
白薔薇姫の面影から創りだした、新しい妖魔でした。
心はまっさらで、言われたとおりにしか行動できない、
人形のような存在です。

自分の寵姫である白薔薇姫はやれぬが、
アセルスの気持ちを組んでやりたいという
オルロワージュ様なりの優しさなのか……。

それとも、白薔薇姫とそっくりの妖魔を与えることで、
白薔薇姫を失ったアセルスの心を、
さらにかき乱してやろうというのか……。

オルロワージュ様の真意を、
私は複数持たせるようにしていました。
どちらにでも行けるように作って、ユーザーの皆さんの選択で
未来を変えていけたらと思っていたからです。

物語に正解がない。
すべての選択が正解である。
それが、フリーシナリオのいいところですね。

オルロワージュ様の真意は別として、
アセルスが紅薔薇姫をどう扱うかでも、
紅薔薇姫の未来が変わるようにしたいと思っていました。

紅薔薇はアセルスのために作られた若い妖魔なので、
心がまっさらの、純粋な存在です。

アセルスを主として必死にお仕えしようとするのですが、
それ以外の目的を持っていません。

アセルスはそこにどうしても白薔薇姫の面影を見てしまうのです。
白薔薇は優しかった、彼女ならこんなことを言ったはず……。
白薔薇姫には心があった、と。

アセルスは白薔薇姫と瓜二つの容姿を持ちながらも、
内面があまりにも違いすぎる、紅薔薇姫を避けるようになり、
紅薔薇はそれに戸惑います。

アセルスと紅薔薇姫の関係も、
ユーザーの皆さんの選択で変えたいと思っていました。

白薔薇姫への後悔や悲しみを引きずり、
紅薔薇姫を遠ざけ続けた場合は、
紅薔薇姫はオルロワージュのもとへ戻り、
硝子の棺に眠ってしまう。

しかし、もしアセルスが、白薔薇姫への思いを持ちながらも、
紅薔薇姫を新しい仲間として受け入れられたら、
紅薔薇姫は心を育て、白薔薇姫とはまた違った形で、
アセルスを支えていく女性になっていきます。

紅薔薇姫を教育することはアセルスに、
教育係として白薔薇姫がついてくれた日々を思い起こさせます。

誰かを教え導くことの喜びにアセルスは、
白薔薇姫が自分をどう見ていたのかわかっていきます。

そして、白薔薇姫にとっては、
必ずしもオルロワージュ様の元を逃れるのが
正解だったのではないと気づくのです。

アセルスの世話をやく日々に、
白薔薇姫はささやかな幸せを見出していたのです。

そうしてアセルスは、
自分が白薔薇姫を巻き込んでしまったのだと自覚します。

これは誰のためでもない、自分のための戦いであり、
自分がオルロワージュ様との闘いに
決着をつけねばならないのだとわかるのです。


<その後の物語>

また、マルチエンディングの先の物語も考えていました。

半妖ENDではゾズマが今までの妖魔の掟を覆し、
下級妖魔による反乱を起こして、新しい妖魔の世界を築き、
結果として孤立した針の城がアセルスを頼ってきたり……。

妖魔ENDではついに復活したオルロワージュ様と
妖魔の君となったアセルスとの間で、
黒騎士と寵姫たちが真っ二つに分かれて闘ったり……。

いつかアセルス編の完全版を作れる日が来たらと、
今でも思ってしまいます。

どこかに、「アセルス編完全版? いいねえ!」と
制作費をポンとだしてくださる豪気な方は、
いらっしゃらないでしょうか?(笑)



最後に――。

妖魔たちの世界を思うとき、私はいつも
「作らせてもらった」という気持ちになります。

この広い世界のどこかにひっそりと息づく妖魔たちの世界、
それを、人間たちに知らしめろ、と――

そんな風に妖魔の君のような存在がおっしゃって
私に、あの不思議な青年の夢を見させたり、
オルロワージュ様の名前を思いつかせたりして
いただいた気がしてならないのです。

アセルス編は、そんな不思議な力や、
先輩方の卓越した技術力が合わさって生み出された作品です。
シナリオとシステムが一体となった完成度の高い、
本当に素晴らしい作品でした。

私はこの後、
イベント班のリーダーだった先輩の誘いでサガ班を離れ、
久しぶりに復活した聖剣チームに貰われていくことになります。

サガチームを去るとき、お世話になった、
とある先輩が送ってくれた言葉が胸に焼き付いています。

「自分にとっては聖剣チームはふるさとだったと思う。
 でも、それはなくなってしまったんだ……。
 だからね、生田さん。新しい聖剣をよろしくね」

ゲームはいつだって、出会いと別れです。
本当に、二度と同じチーム、同じ布陣ということはありません。
どんなに望んでも、絶対に、それはないのです。

長年親しんだチームの解散には、
我が身を引き裂かれるほどの痛みがあります。

あの時の私はまだ若く、
そんなことには気づきもしませんでした。
いつだってあの場所に、仲間たちのもとに戻れると、
そう信じていたのです。

だから、私は先輩が何を伝えたかったのか、
その十分の一も気づくことが出来なかったのでした。

私にとって、アセルス編は特別な思い出です。
たぶんあの時のサガフロチームが私のふるさとだったのでしょう。
でも、そうだと気づいた時にはもう、
その場所には、けっして戻ることはできないのです。

それでも、あのキラキラした妖魔たちの世界を
アセルスと白薔薇とジーナの切ない物語を、
憧れだったサガチームの先輩方と一緒になって
世に送り出すことが出来たという事実は、
今も変わらず私を支えてくれています。

サガチームを離れたことを悔やんだ日々もありました。

ですが、子供が住み慣れた家や街を出て、
社会に飛び出し、やがては大人になっていくように、
先輩の庇護のもとのびのびと育ててもらった私は、
先輩たちの作った古巣を後にして、
新しい巣を作らねばならなかったのです。

その新しい巣、
聖剣伝説レジェンド・オブ・マナの話はまた次の機会に……。

サガフロは私が雛として育った大切な場所です。
今は、ただ、そんな故郷を持てたことが、うれしいのです。


ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

ゲームを愛する方々に、
ゲーム開発の古き良き時代のあの空気感と、
そこに籠められた様々な思いを、
少しでも届けることが出来ればと思っています。

ありがとうございました。

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