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2012年2月15日 (水)

バトンリレーのこと

ゲーム開発はバトンリレーみたいなものです。例えば私はシナリオライターですが、現場監督や企画やバトルのリーダーからバトンを受け取って、彼らのオーダーに合致したシナリオを書き終えOKをもらうと、そのバトンをイベント班やグラフィック班に手渡します。

バトン(=作品)は人手を経るごとに洗練され、より具体的な形となって次の部署に託され、完成に近づいていきます。ゲーム開発はチームで乗り切る団体戦なのです。だから誰かひとり突出した能力者がいたとしても、ずっとその人物のターンというわけではないです。

よく誤解されるのがシナリオライターのターンです。ライターってずっとバトンを握りしめ「俺様のターンだ!」とやってるんじゃないの?――と。そんなことはありません。それではグラフィッカーさんはどんなキャラやマップを用意すればいいのかわかりませんしイベント班はイベントを組めません。

シナリオは色んな部署の素材割り出しに必要なので早い段階で書き終えます。バトル班やマップ班も同様に、仕様を固める時期を集中して走り込んだ後は関連部署に「こういう仕様だから合わせて欲しい」とバトンを渡し、バトン受け渡しの調整が整った後は、黙々と目の前の業務に徹します。

そういった各部署が複雑に絡み合って作業する中で、誰かが何ヶ月もバトンを握りしめたまま「俺様のターン!」とやっていたら開発は麻痺してしまいます。なので現場監督はそんなことがないよう先行してゲーム性を詰め、問題があれば早めに対処し、適切な指示を飛ばしてバトンリレーを先導します。

バトンは必ず次の走者に渡すものであり、バトンを手にしていて良い時期、自分がメイン走者となって走っている時間というのは、役職に限らず決まっているのです。中でもシナリオライターは、「さっさとバトンを渡せ!」と各部署からせっつかれる役職です。シナリオはいつも時間との戦いなのです。

シナリオライターは自分の区間走行が終わっても気が抜けません。バトンを持ってる現場から「シナリオでこれができないか?」と、瞬間的にバトンを手渡されることがあるからです。そんな時は「うお!ここで来るか?」と心で思いながらも「できますよ!」と笑顔で引き受けるしかありません。

そんな時シナリオライターは全速力で代走します。どこまでどう走ればいいのか、現場から具体的な指示があるので迷うことはありませんが、とにかくこれも時間との戦いです。早ければ早いほど現場に時間を渡せます。ゲームは現場で出来ています。シナリオがバトンを止めるわけには絶対にいきません。

こうして、ところどころシナリオライターの代走を挟みながら、チーム全体でバトンを回して一年から二年半――。長くて短い開発期間をチームみんなで完走した時、その「バトン=作品」には開発者全員の思いと、工夫を凝らした様々な面白さが詰まっていることになります。

走者として自分の区間を走りきって次の走者にバトンを渡していく。これは開発者のひとりひとりがお互いの技を認め、信頼と尊敬によって結ばれていなければ成り立たないものです。誰かひとりが走り続ける開発もあるかもしれませんが、こういった全員完走の開発がひとつの理想だと思っています。

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