時を超えた給料明細
仕事に行く主人を見送りに玄関に立つと、
急に主人が声をかけてきた。
「俺、実は親父の給料知ってるんだ」
「え……?」
それは私にとっては意外な言葉だった。
主人のお父様が他界したのは、
主人が学生時代のことだったと聞いていたからだ。
学生の息子に、自分の給料について話すものなのだろうか?
不思議に思っていると、主人が仕事のカバンを指さした。
甘茶色に染まった四角いかっちりとしたカバンは、
主人の仕事用のカバン。
それは、お父様の形見の品だった。
「ここに入ってたんだ、給与明細――」
「そうだったんですか……」
「親父、こんな薄給で、身を壊すほど働いて命を縮めて……。
そうまでして、俺たちを養ってくれてたんだな」
主人はカバンを持つと、私を抱きしめた。
「君より長生きすることは、結婚前の約束だったから果たすよ。
でもね、俺はもっともっと頑張る。そうしなきゃならないんだ」
あの給料明細は、きっとお父様からのメッセージなのだろうと思った。
成人し、家庭を持った未来の主人のために、
こういう形で「頑張れ」と言ってくれているのじゃないかと思う。
誰かを思う気持ちは、時を超えて届くのかもしれない。
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