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2011年5月 9日 (月)

時を超えた給料明細

仕事に行く主人を見送りに玄関に立つと、
急に主人が声をかけてきた。


「俺、実は親父の給料知ってるんだ」

「え……?」


それは私にとっては意外な言葉だった。
主人のお父様が他界したのは、
主人が学生時代のことだったと聞いていたからだ。
学生の息子に、自分の給料について話すものなのだろうか?

不思議に思っていると、主人が仕事のカバンを指さした。
甘茶色に染まった四角いかっちりとしたカバンは、
主人の仕事用のカバン。
それは、お父様の形見の品だった。


「ここに入ってたんだ、給与明細――」

「そうだったんですか……」

「親父、こんな薄給で、身を壊すほど働いて命を縮めて……。
 そうまでして、俺たちを養ってくれてたんだな」


主人はカバンを持つと、私を抱きしめた。


「君より長生きすることは、結婚前の約束だったから果たすよ。
 でもね、俺はもっともっと頑張る。そうしなきゃならないんだ」


あの給料明細は、きっとお父様からのメッセージなのだろうと思った。
成人し、家庭を持った未来の主人のために、
こういう形で「頑張れ」と言ってくれているのじゃないかと思う。
誰かを思う気持ちは、時を超えて届くのかもしれない。

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