気持ちを持って進もう
主人と歩いた浜辺も、
我が子と鮭を見に行った川辺も、
みんなでドライブした海沿いの道も、
もうないのだと言う。
いつか我が子と見たかった風景のひとつひとつが
ニュースを聞くたびに消えていった。
主人の生まれ育った場所は
もともと過疎化が進み、家々が引っ越して行き、
町がまるごとなくなっていた土地だった。
「町がなくなったとき俺は、自分が育った風景は、
もうどこにも何も残っていないものだと思っていたけど、
それでも美和さんと新しく作ってきた思い出まで、
こんな風になくなるなんてな」
家族が生きていた、それだけでいい――。
そうつぶやいたきり、
主人はまた地元の様子を伝えるニュースを探した。
瓦礫の山に、流れている家具に、車に。
そのひとつひとつに。
誰かの暖かい暮らしがあったのだ。
生きて、そこに暮らしていた人たちがいたのだ。
そう思えば、ひたすらに悲しい。
この地震と津波は、大勢の方々の命を奪った。
私たちの心を壊した。
それでも生き延びた人たちを支えるために。
この気持ちを忘れてはならない。
相馬野馬追(そうまのまおい)
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