きっと届くよ
これは一年以上前のお話。
育児と悪戦苦闘していた時のこと――。
慣れない育児に疲れて、
子供もまだ小さく喋れないことから
ふと気づくと無口になってしまっていた。
これじゃいけない!と、折れそうな心に鞭打って
楽しいことを話すように心がけた。
電車が来れば
「電車さん来たねえ」、
電車を降りれば
「電車さんありがとう。気をつけてね~」
やがて我が子も大きくなり、離乳食を食べるようになり、
少しずつ手がかからなくなってきた。
言葉にも興味が出て、私の真似をして喋るようになった。
生田「あ、電車いったね!」
こども「あ、でんたった!」
生田「ばいばーい! お気をつけて!」
こども「ばっばーい! おてって~!」
最近、食べるものも大人と同じになった我が子。
お喋りもすっかり上達し、言葉をつなげて、
たどたどしくも文章を喋れるようになった。
そして――。
私が、すっかり電車に話しかけることが
なくなったある日のこと。
我が子が、電車から降りたとき突然、
去っていく電車にちいさな手を振りこう言った。
こども「でんたったん!
あんがと~! きおっててね~!」
電車さん、ありがとう!気をつけてね!
一年前の自分が放った言葉が時を超えて、
やってきた気がした。
はじめは真似っこだったかもしれない。
意味もわかっていなかったかもしれない。
けれども今は、
自分の気持ちでこの言葉を選び、
自分の意志でこの文章を喋っているのだ。
私の声は、いつだってちゃんと
我が子に届いていた――。
そう思うと泣きそうになってしまった。
心は通じていくと思う。
すぐにはわからなくても、いつかは届く。
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