数十年後にまた……
思い切って、今日は朝から出かけた。
重く垂れた雲のせいか、やや肌寒い風のせいか、
見慣れた街が、どこか違って見える。
46年ぶりの皆既日食だという。
強く意識していたわけではないのに、
昨日は何故か眠れなかった。
あいにくの空模様だが、
夜のように暗くなるという風景は見てみたい。
足早に駅まで出てみたものの、まだ時間はある。
ウィンドウショッピングで時間を潰そうと店に入ると、
大きなシェルフが目に飛び込んできた。
ちょうど、こんなシェルフを捜していた。
サイズも我が家にぴったりのように思える。
迷ったが、主人にメールを飛ばし相談。
仕事を終え、駆けつけてくれた主人と
サイズや搬入口を確認して、購入を決定する。
配送手続きを済ませ、店を出る。
すると、鈍い灰色に沈んでいた街が、
ゆっくりと光を取り戻していくところだった。
主人「そういえば美和さん、日食は?」
生田「!」
日食のピークは過ぎてしまっていたのだ。
生田「ああ、買い物なんて後回しで良かったのに~」
主人「じゃあ、次の皆既日食を見ればいいよ」
生田「でも、たぶん何十年も先ですよ」
主人「一緒に見られるよ」
くったくない主人の笑顔を見て、
遠い未来が、すぐ側に感じられた。
生田「そうですね」
宇宙規模のドラマチックなイベントと、
私たちのささやかな日常の出来事と。
比べたら、日常のことなど、
なんの価値もなさそうに見えるけれども、
そうではない。
こんなたわいもない、それぞれの日常が――
だけど、かけがえのない日常が――、
宇宙のドラマというフィルターを通して、
時を超えて、空間を越え、つながっていく。
きっと26年後、
前の皆既日食の時はああだったねと、
あの時も君と一緒に空を眺めていたなあと、
懐かしく話し合うのだろう。
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