夫婦レベル5
四国うどんめぐりの旅が終わります。
旅の終わりは物悲しいものです。
一度見た景色の中を、時間をさかのぼるようにして
帰っていくだけなのですから。
と、主人が車の中で、ガイドブックを広げています。
生田「あれ? どうしたんですか?」
主人「だって、来た道帰るの、つまらないでしょう?」
なんというか、自由人です。
主人は、ガイドブックを見せて、
立ち寄るのによさそうな観光地をプレゼンしてくれるのですが、
私は車に弱くて、ここまでの道中ですっかり酔っていました。
生田「立ち寄る場所は、おまかせします。
ちょっと、寝たほうがよさそうです……」
主人「了解。じゃあ、安心して眠ってて」
本当は、運転する主人が眠くならないよう、
集中力を失わせない程度に話しかけたり、道を調べたりするのが、
助手席に座る私の役目なのですが、酔いには勝てませんでした。
しばらくして、
サービスエリアに着いたと、主人が起こしてくれました。
生田「ごめんなさい、すっかり寝てしまって」
主人「いや、いいよ。
美和さんは甘いもの買ってくれば起きると思ってたしね。
ほら、草もちだよ」
生田「わー、ありがとう!」
と言いつつ食べたのですが……。
この草もち、猛烈に甘いだけで、とても不味かったのでした。
でも、主人の優しさを無駄にしたくなかった私は、
おいしいと言って、全て平らげておきました。
ところが、快調に走り出して、しばらくすると――。
生田「(ぜー、はー、ぜー、はー)」
主人「美和さん、どうした!?」
青ざめる私の姿に、主人も青ざめています。
生田「なんだか、気分が……。ううっ……」
主人「さっきの草もちか?
草もちだな!
まずかったもんな!」
生田「(あなた!
わかってて、
おみまいしたんですか!?)」
主人「次のサービスエリアで休憩しよう!
美和さん、他に、俺に出来ることはっ!?」
生田「(力なく、首を振る)」
主人「よし、わかった。
なにもしない!」
生田「(なぜ、
ソコを力いっぱい宣言……)」
もともと体力がなく、車に弱い私に、この旅は厳しかったのかもしれません。
溜まっていた疲れが、あのマズイ草もちをきっかけに一気に出てしまったようでした。
主人は車を飛ばし、サービスエリアへ。
しかし私は途中で倒れ、全部もどしてしまったのでした。
こ一時間ほど休憩して、回復した頃――。
主人「いやー、四国のうどん、全部、四国の地に戻しちゃったねえ。
そうか。そうか。
四国の美味うどんも、マズイ草もちには勝てないか~」
生田「あなた、私に何か言うことはありませんか?(なみだ目)」
主人「一服もって、ごめんなさい」
生田「私のうどん……」
落ち込んでいる私を見かねて主人が言います。
主人「美和さん、広島に行きましょう」
生田「え?」
主人「広島にはおいしいものがあるし、
厳島神社って言う、
日本三景のひとつがあるんですよ」
そのとき、不思議に思ったのです。
厳島神社――。
その名前が出てくるなんて。
私は多分、驚いてしまって、しばらく静かになっていたのだと思います。
主人「行きたくない? 無理にとは言わないけど……」
生田「つれてってください。私、行きたいです」
主人「よし、任せとけ!」
そして、車を飛ばし……。
船に乗り……。
この絶景です!
ちょうど潮が引いていて、大鳥居に触れることが出来ました。
生田「ああ!
私、ここに来たかったんです!
日本で一番、ここに来たかったんです!」
主人「そうだったの?
美和さんそんなこと一言も……」
主人は驚いて、そして優しい声で言いました。
主人「美和さん。
俺たち、行きたいところには、どこへでも行けるんだよ。
だから、今度は教えてね」
なんて頼もしい一言なんでしょうか。
主人は、自分だけじゃなく、私まで自由にしてくれるのです。
生田「じゃあ」
主人「じゃあ?」
生田「私、この大鳥居が、青空に立っているのを見たいんです」
主人「よおーし!
今夜は広島焼き食べるぞー!」
あなた!
私より、ソッチですか?
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