なんと、海で遊んだその日の夜……。
私は、激しい腹痛と嘔吐で、
病院に担ぎ込まれてしまったのでした。
原因は不明。
夜間は緊急手当てを受けましたが症状は緩和せず、
翌日、あらためて検査することにしました。
翌朝、妙に重たく感じられる体を引きずって病院に行くと、
たいへん紳士的な優しい先生が慎重に診てくださいました。
「これは、急性腸炎ですね。すぐ点滴しましょう」
「は、はい……(嫌だなあ、点滴の針、刺されるの)」
と、点滴の痛さと怖さだけで倒れたこともあるくらい、
痛みに敏感な私がブルーになっていると、
「レントゲンで見たところ、
何かが引っかかっているわけではないので、
手術の必要はないと思いますが」
「え? 手術!?」
「まあ、場合によっては、
鼻から腸まで管を通しましてね、
ガスを抜いたり、
悪い汁を抜いたりする必要があるかも……。
……。
まあ、ちょっと苦しいんですがね」
(ちょっ、ちょっと?、
鼻から管がっ!? ちょっと!?
ソレ、ちょとってことないだろーっ!?)
ジェントルマンの口から、出るわ、出るわ、恐怖の呪文。
この時点で、私の小動物な心臓はバクバク。
40度近くの熱も手伝って、意識は朦朧。
「まあ、ともかく、すぐに入院された方がいいです」
(う、うそー!!!!)
そんなわけで、
鼻から管に脅えつつ……、
なんと九日間も入院していました。
家族や友人と離れた慣れない町で、
ひとりぼっちで病院に居る時の心細さといったらありません。
毎日、顔を出してくれる主人と、
主人が持ってきてくれる家族からの手紙、
そして、同室の女性ふたりにとても励まされました。
ひとりは、90歳になられる上品なご夫人でした。
戦争のこと、ご主人のこと、お孫さんのことなど、
色々話してくださいました。
「私は、あの時の辛さを思うとね、
なんでも耐えられるし、頑張れるなあ、と思えるのよ」
もうひとりは、二十代の女性です。
彼女の病気は難しくて、私にはよくわかりませんでした。
その苦しみや痛みも、想像を絶するものがありました。
彼女は、その痛みに、静かに耐えているのです。
「こんなに痛いと、
自分が悪いことしたんじゃないかと思ってしまう。
それで罰を受けてるんじゃないかって、思ってしまう……。
でも、私は、きっと元気になれると思ってる。
それに、痛い思いをしているひとほど、人の痛みもわかるから。
この痛みは無駄じゃない」
明るくてまっすぐな彼女の人柄は、
いつでも病室を優しい雰囲気にしてくれました。
彼女に病気になるような理由なんか、ないのです。
罰を受けるようなことなんか、少しもないのです。
寝つけない夜、色々なことを考えました。
病気は何故、人を選ばないのかということ。
何故、健康に気をつけて、体を鍛えていても、
病気になってしまうのかということ。
私たちに出来ることは、定期的な検査による早期発見。
そして早期治療……。
でも自分が健康でも、愛する人が病気になってしまったら?
その痛みを代わってあげることは、出来ないのです。
高熱に浮かされながら、辿り着いた結論は、
誰だって、とにかく生きていくべきじゃないのか——
ということでした。
一方的にやって来る病気に、
人生を目茶苦茶にされていいはずがないのです。
だから、絶対にみんなで、元気に生きていきたい。
そんなことを強く感じました。
写真は、入院中にいただいた励ましメールからです。
蝶が好きな私にと、蝶の写真をたくさんいただきました。
不思議なことに、このアゲハチョウ、40分以上もこうしていたそうです。
まるで思いが通じているみたいに、逃げないでいてくれたのです。
病気は辛かったけれど、
いろんなひとの温かさに支えられた入院生活でした。