2013年11月13日 (水)

シナリオドリル、チュートリアル編(2)

シナリオドリル、チュートリアル編(1)」の続きです。

 前回は、例題のチュートリアルの文章の
おかしな点を、ひとつずつ指摘して、なぜおかしいのか?、
その考え方を、ゆっくりと解説していきました。

 例題はこちらです。



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【例題】

  「敵が出るから戦ってね!」

  「わあ、勝ったね! 次も敵が出るから戦ってね。
   勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」

  「わあ、勝てたね! はい、回復アイテム!
   回復アイテムはHPを回復するよ!」


(問)
  上記、チュートリアルのテキストには、
 おかしな点があります。それはどこでしょうか?

  また、何故それはおかしいのでしょうか?
 おかしな点と、おかしな理由を書き出して下さい。

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 シナリオドリル後半戦となる今回は、
チュートリアルの基本的な考え方に触れていきます。

 前回ドリルにチャレンジしてくださった方は、
よろしければ、またノートと飲み物を片手に、
気になるポイントをメモしながら、読み進んで下さい。


 それでは、まずは、
これまでのまとめと対策から、解説していきますね。




(1)前回のまとめ

 前回までの流れをまとめます。

 このチュートリアルの問題は、

「ナビキャラが、ユーザーさんがアクションする前に、
 その行動の結果を言ってしまうこと――」

 これに尽きます。

 この、結果を先回りした要らないヒトコトのせいで、
ユーザーさんは、「プレイして試す」という、
ゲームならではの楽しみを奪われ、
わかりきったことを確認させられるだけになってしまいます。


 いわゆる作業です。


 推理小説を読む前に、犯人やトリックをばらされたら、
がっかりしてしまいますよね。

 情報の先取りは、あまり歓迎されるものではありません。
知るべきタイミングで知れば良いことを、前もって伝えるのは、
親切ではなく、意地悪です。


 では、このチュートリアルどう治せばいいのでしょうか?






(2)よいチュートリアルの書き方

 チュートリアルのおかしな部分はわかりました。
それでは、良いチュートリアルとはどういうものでしょう?


 ヒントは、ゲームを楽しむ遊び心がくれます。



 困ってるキャラを助けたり、
任務遂行のため無茶したり、したくありませんか?

 その過程で戦いに巻き込まれ、
仲間と絆が深まったりしたくありませんか?

 ふいに敵が落としていったアイテムに、
ワクワクしたくありませんか?


 小さな楽しみの連続がゲームの面白さのひとつです。
そこを、テキストで支えましょう。


 守るものや成すべきことがあるから、
「このモンスターを倒して目的を遂げるぞ!」と思います。

 そんな戦いの理由があるから、
「回復アイテムがあれば心強い!」と思います。


 いきなり答えを突きつけるのではなく、
その答えを欲するようにユーザーさんの心を導く、
それがチュートリアルに求められることです。


 このチュートリアルは、たった3つの台詞で、
ユーザーのワクワク感を削いでいます。


 これが言葉の怖さであり、強さでもあります。


 ボタン連打で飛ばされてしまうようなテキストは、
誰にとっても、幸せなものではありません。


 テキストも、ゲームの大切な一部です。


 ゲームの導入を預かるチュートリアルでは、
ゲームの良さを活かし、ユーザーのワクワク感を支える
テキストを心がけましょう。





(3)おかしなチュートリアルが出来るワケ

 チュートリアルを書く時は、ユーザーさんの
ワクワク感を支えるテキストを意識するとわかりました。

 でも、それはシナリオライターなら理解しているはずです。
なのに何故、おかしなチュートリアルを見かけるのでしょう?


 シナリオは誰でも書ける、シナリオは誰でも見れる――。
という、誤解があります。

 この誤解から、シナリオに適性のない人をライターにしたり、
シナリオに明るくない人を監修にしたりということがあります。


 でも一番の原因は、シナリオに対して、
「開発からのオーダーがない」ことです。


「開発からのオーダーがないなんて、ありえない!」
と、思う方も多いでしょう。たしかにそうです。

 実際、ゲーム開発者は、シナリオライターに対し
色々なオーダーをしているつもりです。


 例えば、こんなふうにです。



「チュートリアルのはじめにバトルを持ってきて、
 ユーザーにバトルを体験させたい。
 その中で回復アイテムを使わせ、新カードを入手させたい」

などです。


 業界の方はわかると思いますが、
よくあるシナリオへのオーダーですよね。


 それで、これを、シナリオへのオーダーとして、
まじめに受け止めると、「はい、バトルになりますよ」
「はい、回復アイテムをあげますね」「はい、ここで回復しましょう」
「はい、ご褒美の新カードです」と、開発の思惑を順に並べ、
それをキャラの口調に置き換えたシナリオができます。


 つまり、シナリオへのオーダーが、
「開発の思惑として、こういう流れで遊ばせたい」に
終始してしまうため、そこからシナリオが発展しないのです。


 開発者さんは、けして、
「開発の思惑を、ダイレクトにユーザーに伝えてくれ」
という意味で、話してはいません。


 ですが、どんなシナリオがいいだろう?と話しだすと、
また、「開発の思惑からくる遊びの流れ」に立ち戻ってしまい、
開発の思惑、遊びの流れ、各要素の意味などばかり話して、
そこから抜け出せなくなるのです。


 実はここで、シナリオ制作に向けた、視点の変更が必要なのです。






(5)知ったことか!の精神

 チュートリアルのシナリオについて考えたいのに、結局、
「開発の思惑からくる、ユーザーにとって遊びやすい最良の流れ」
から話が発展しない場合があります。

 そして、そのせいで、
開発の思惑を台詞に書き換えただけのシナリオが、
あがってきてしまいます。

 でも、あがってきたシナリオは、
開発のオーダー、「遊びの流れ」をちゃんと満たしているので、
「これでいいのだろうか?」と思いながらも、
「まあ、いいんだろうな」と、なってしまうわけです。


 いいわけありませんよね。しっかりしましょう。


 荒療治になりますが、困っている方は、
まず、こう考えてみて下さい。



・「戦い」は開発側が体験させたいことであり、
 主人公の目的でもなければ、ユーザーの目的でもない

・「アイテム」の入手やタイミングも開発側の都合であり、
 主人公の目的でもなければ、ユーザーの目的でもない

 つまり、主人公とユーザーにとって、
開発者の思惑なんて、どうでもいいことなのです。


「どうでもいい」というのは、強烈な言葉ですよね。
でも、あまりショックを受けないでください。


 裏事情を知ってしまえば世界は色褪せます。
そのゲーム世界で遊ぼうとしている最中だからこそ、
ユーザーさんは、開発サイドの意図を
知りたいとは思わないのです。


 ユーザーさんが、
開発者のことや開発秘話を知りたくなるのは、
そのゲーム世界から目覚めて、現実に戻ってからです。


 そんなわけで、シナリオ制作には、
主人公とユーザーの「開発の思惑なんてどうでもいい」
という視点を取り入れることが必要になります。

 誤解されると困るのですが、
これはシナリオライターが開発者の意見を軽んじる、
ということではありません。

 むしろ、重く受け止め、それをどうすれば、
「どうでもいい」という主人公やユーザーのところまで、
引っ張っていけるのか、考えます。


 ここまでくれば、道半ばです。
チュートリアルに求められるシナリオの姿を、
いっきに明らかにしてしまいしょう。



「開発サイドは、
 ユーザーが遊びやすいようにと、遊びの流れを決めた。

 しかし、ここでの開発の思惑、
 この順番で遊びの要素に触れて欲しいということは、
 主人公とユーザーの目的ではない」

         ↓

「そこで、この開発サイドの思惑を、
 主人公とユーザーに関わりのあるものに加工し、
 自然な話の流れの中で、ゲームが進むようにして欲しい」


 これが、開発側のシナリオへのオーダーです。


 次は、開発側の思惑というゴツゴツしたものを、
自然に、なめらかにする過程を見て行きましょう。





(5)なめらかに、自然に、そしてワクワク!

 開発が求めている、チュートリアルのテキストは、
開発の思惑を話し言葉に置き換えたようなものではなく、

 開発の思惑を取り入れながらも、それを、
主人公や、ユーザーの事情として噛み砕いて、
自然な話の流れにしたもの、ということが分かりました。


 では、自然な流れとはどんなものでしょうか?


 開発側がバトルを入れたい場合を例にすると、
例えば、こんな感じになります。



 <開発の思惑
  「ここでバトルをして欲しい」>

      ↓……主人公&キャラの目的を付加

 <主人公の目的
  「あのキャラに認められたい。
   だから、このバトルで力を示す!」>

      ↓……主人公&キャラの魅力を提示

 <ユーザーの目的
  「バトルで勝つと
   あのキャラと仲良くなれそう」>


 これはあくまで一例です。
わかりやすくするため、シンプルな形にしています。


 この流れで、
実際にシナリオライターに求められている仕事が、
情報の加工技術だということがわかると思います。




「開発の思惑をかみ砕き、
 キャラの目的にからめた言動として描くこと」

「開発の思惑をかみ砕き、
 ユーザーが先を見たいと思うような、
 キャラやあるいは世界の変化として描くこと」


 大きくわけてしまえば、このふたつです。
「現在の状況」と「未来の状況」を主人公に絡めて考えます。


 現在、主人公は認められていないとすれば、
主人公は「認められるために戦うのだ」と言いやすくなります。

 戦って認められた先に、
人間関係の変化があれば、そこが魅力になって、
「先に進みたい」とユーザーに思わせることが出来ます。


 「今を変えたい」のが主人公で、
「未来の変化をみたい」のがユーザーなのです。


「現在」と「未来」、「主人公」と「ユーザ」ー――
この4つの要素の組み合わせを足場にして、
ユーザーの興味を引き付けるように、
開発の思惑や、伝えねばならないことを加工します。

 (2)の「よいチュートリアルの書き方」で取り上げた、
ユーザーさんがワクワクを感じるところを支える姿勢で、
情報の加工をしていきましょう。

 遊び心を忘れずに、です。





(6)ゲームシナリオライターの仕事とは?

 関連して、ゲームシナリオライターの仕事について、
お話しておこうと思います。


 ゲームシナリオライターの仕事は、
開発の思惑や設計を、物語という形に翻訳し、
ユーザーさんの心をゴールに導くことです。


 もっと簡単に言えば、ゲームシナリオライターの役目は、
ユーザーに「○○したい!」と思わせることです。

 「○○したい!」という思いを繰り返させて、
ユーザーさんを、ゲームクリアへと導きます。


 ゲームシナリオは、ゲームではないと言う人がいます。
限定的には、そうだったシナリオもあるかもしれません。

 ですが、そうした思いが、テキストやシナリオを、
ゲームシステムから遠ざけてきた原因のひとつではないかと、
私は感じています。


 シナリオは、ゲームシステムを翻訳したものです。
そこには、ユーザーさんに伝える情報と、
ユーザーさんがとりうるアクションの設計図があります。

 主人公がどこで、何をし、誰と出会い、何に向かうのか?
それは、一見してドラマが決めることのようにも見えますが、
マップやバトルの計画が決めることでもあります。

 初めてのダンジョンは短めだとか、
中ボス戦あたりから、戦略が増えるとか、
ラスボスはパーティーふたつにわけて挑むとか、
ゲームシステムが、シナリオの骨格を作っているのです。

 ゲームシナリオも、ゲームデザインなのです。





(7)さいごに

 「シナリオドリル、チュートリアル編」いかがだったでしょうか?

 業界を目指す方や、シナリオを監修される方の
お役に立てれば幸いです。


 私自身は、ゲームシナリオは、ゲームシステムを、
人間に理解しやすい形に翻訳したものであり、
ゲームシナリオもゲームシステムの一部と考えています。

 ゲームシナリオは、私にとって、
ユーザーさんの心をどう冒険させるか、その設計図です。

 でもこれは、私の一意見に過ぎません。
沢山ある選択肢の中のひとつだと思ってください。


 様々なジャンルがあり、様々な作り方があり、
そして、様々な遊び方があるのがゲームの魅力です。
 その意見も、唯一の正解ということはないでしょう。


 長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
ゲームは遊ぶのも、作るのも、考えるのも楽しいですよね。
 これからも、楽しいゲームが沢山生まれますように。

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2013年11月12日 (火)

シナリオドリル、チュートリアル編(1)

 今日は、「チュートリアルのテキスト」について、
考えていきたいと思います。

 今回は「自分で考え、自分で解く」形になります。
 イメージは、算数ドリルのシナリオバージョン、
『ゲームシナリオのドリル』です。

 例題を元に
「チュートリアルのテキストをどう書くべきか?」を
ゆっくりと解説していきますので、
よろしければ、ノートと飲み物を片手に読み進めて下さい。

※こちらは、先日、
 Twitterでお話させていただいた内容をまとめたものです。



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【例題】

  「敵が出るから戦ってね!」

  「わあ、勝ったね! 次も敵が出るから戦ってね。
   勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」

  「わあ、勝てたね! はい、回復アイテム!
   回復アイテムはHPを回復するよ!」


(問)
  上記、チュートリアルのテキストには、
 おかしな点があります。それはどこでしょうか?

  また、何故それはおかしいのでしょうか?
 おかしな点と、おかしな理由を書き出して下さい。

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 どうでしょう? おかしな点、見つかったでしょうか?

 もし答えがわからないようでも、
自分が感じたことを言葉にして書き出してみてください。

 例えば、このチュートリアルが自分にとって、
親切か?不親切か?、自然か?違和感があるか?、
楽しいものか?つまらないものか?、などです。

 自分の感覚は、考える手がかりをくれます。

 答えや感覚を、メモすることは出来たでしょうか?
それでは、解説していきますね。





(1)解説

 このチュートリアルで悪い点は、ひとつです。
それは「ユーザーさんのアクションに先回りして結果を伝える」
というところです。

 具体的には、
「敵が出る前から、敵が出ると伝える」
「戦って勝つ前から、勝てば回復アイテムが手に入ると伝える」
「回復アイテムを使う前から、HPが回復すると伝える」
の三箇所です。

 それでは、テキストをひとつずつ見ていきましょう。





(2)敵が出ることを、
    あらかじめ伝える必要があるケース

 まず、例題の文章の一行目「敵が出るから戦ってね」です。

 このテキストに違和感はありませんか?
違和感がない、よくわからないとおっしゃる方は、
こちらを考えてみてください。



「ユーザーさんに、あらかじめ
 敵が出ることを伝えねばならないケースとは?」

 このケースを、思いつく限り、書き出してみましょう。



・そのバトルにキャラの思惑がある場合
            →「腕試しのテストだ、復讐だ」等

・そのバトルに備えが必要な場合
            →「装備やスキル、仲間の入れ替え」等

・そのバトルに敗北しそうな場合
            →「セーブした方がいい、引き返せ」等

 ざっとこんなケースが考えられると思います。


 これらのケースを、もう少し詳しく解説します。

一番上のものが「シナリオから、バトルに目的を付加したもの」

二番目、三番目のものが
「システムから、遊び方をガイドしたもの」です。

 目的がある方が戦う理由が明確となりますし、
バトルに備えることができるなら、そこも遊びになるのです。

 では、このことを踏まえて、
チュートリアルに戻って考えてみましょう。





(3)その予言は誰のため?

 例題の文章の一行目、「敵が出るから戦ってね」。

 これは、前もってバトルがあることを伝える一文ですが、
主人公や周辺キャラに「目的を付加するもの」ではありません。

 また、チュートリアルでは、
初めてこのゲームに触れるユーザーさんに配慮して、
伝える情報をコンパクトに絞っています。

 なので、装備や、仲間キャラの使い方など、
複雑なシステムの説明は後回しになっていることが多く、
前もってバトルがあることを伝えて、
戦いに備えてもらおうというものでもないのです。

 つまり、「敵が出るから戦ってね」という台詞に、
ユーザーさんに伝えねばいけない情報は入っていません。

 それなのに、先の展開を言っているので、
「この先どうなるんだろう?」というユーザーさんの
ワクワク感を奪ってしまっているのです。


 遠い未来について言及するなら、
「そうなってしまうんだ」という驚きや、
「その未来を変えなくちゃ」という情報も持たせやすいでしょう。

 けれども、変えようのない数分先の未来を、
「あなたのアクションの結果は、こうなりますから」と
言われれば、興味が薄れてしまいます。


 以上のことから、例題の「敵が出るから戦ってね」は、
チュートリアルとしては、おかしな台詞だと言えます。

 同じ理由で、2つめの台詞の中にある
「次も敵が出るから戦ってね」も適切ではないのです。





(4)アイテムゲットすることを、
     あらかじめ伝える必要があるケース

 次は、2つめの台詞に進みます。
「勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」です。
ここでも、逆から考えてみます。

「ユーザーさんに、あらかじめ、
 敵を倒せばアイテムが入手できると
 伝えねばならないケースとは?」


 思いつくケースを書き出してみましょう。



・その敵が落とすアイテムがレアな場合
          →「確実に仕留めろとの助言」等

・その敵が落とすアイテムが今まさに必要な場合
          →「このアイテムで呪いが解けるぞ」等


 たぶん、この2つのケースが、主なものだと思います。


 この一番目とニ番目は、ともに、
「システムから遊び方をガイドするもの」です。

 一番目は、アイテムの希少価値に着目した助言です。
二番目は、そのアイテムが必要な状況を背景に、
そのアイテムの入手を促す助言です。

 では、これらのケースを踏まえて、
もう一度、チュートリアルに戻りましょう。






(5)助言か、余計なヒトコトか?

 例題の「勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」は、
バトルに勝った場合、回復アイテムが手に入ることを
伝える一文です。

 ですが、この台詞からは「そのアイテムの希少価値」も
「そのアイテムがなくて困っている状況」も感じ取れません。


 せめてバトルの後など、HPが減った状況であるなら、
「回復アイテムだ! ラッキー!」と、
回復アイテムが入手できることを喜べたでしょう。

 または、これがナビキャラや主人公が求める
「キーアイテム」なのだとの提示があれば、
その「キーアイテムを入手するため戦う!」という、
動機付けが出来たでしょう。


 しかし、この台詞には、
「回復アイテムを入手したい!」と思わせるような
理由が描かれていないのです。


 ですが、この台詞のせいで、ユーザーさんの感じる
アイテム入手への驚きや、ありがたみは半減しています。

 また「回復」と、アイテム効能まで言ってしまっているので
「これなんだろう?」とワクワクすることすらできません。


 バトルの楽しみというのは、大きくふたつあります。


 ひとつは、敵を倒すことや、狙った戦い方ができることなど
「うまくできた!」という、「戦いそのものの楽しみ」です。

 そしてもうひとつが、経験値やお金、アイテム入手など、
勝利の後に得る、「報酬の楽しみ」なのです。


 「勝ったら回復アイテムのご褒美よ!」という台詞は、
この、報酬へのワクワク感を損ねてしまうのです。





(6)ラッピング効果

 さいごに、3つめの台詞
「回復アイテムはHPを回復するよ!」です。


 これも、ユーザーにアイテム使用を促すだけでよく、
実際のアイテムの効能については、
ユーザーさんが試してから言及する、で充分です。



 例えば、
「この薬飲んでみて。なにその疑いの目。私を信じないの?」
などで、ユーザーにアイテム使用を促します。

ユーザーさんがアイテムを使うと「HPが回復した」とアナウンス。

 このアイテムの効能を、確実に伝えたいならば、
「今のが回復アイテムよ。覚えといてね」と念押し。

 このくらいの流れでいいでしょう。


 プレゼントにはラッピングがつきものです。
ラッピングがあることで、リボンを解き、包装紙を開ける間、
プレゼントの中身を想像するワクワクした時間が保たれます。

 アイテムを手にした時、
「どんな効果だろう?」とか「強そうな武器だな、さっそく装備だ」
とか、想像をふくらませる部分が大切なのです。


 この「回復アイテムはHPを回復するよ!」という台詞も、
伝えるべきことを伝えず、余計なヒトコトを言ってしまっている
文章となります。



 以上、例文のチュートリアルの文章の、
どこが、どのようにおかしいのか?の解説でした。

 長くなりましたので今回は、ここまでとしますね。
この続きは、「シナリオドリル、チュートリアル編(2)」で書きます。

 次回は、これまでのまとめと対策についてお話しようと思います。
 ありがとうございました。

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2012年6月13日 (水)

キャラクターの作り方(2)

前回、「キャラクターの作り方(1)」の続きになります。

 主人公の作り方を説明しましたので、
今回はその宿敵、ラスボスをはじめとする
敵サイドのキャラについてです。



 ゲームに出てくる、主人公の適役たち――、
残虐な性質を持つ異能力者や、
恐ろしい計画を進める悪の組織や、
人々を苦しめる魔物や怪物たち……。

 悪役の設定は、どれもインパクトのあるものです。

 ゲーム開発で、こうした、
敵サイドのキャラたちの設定を作る場合、
どのように考えればいいのでしょうか?



(1)敵は邪魔者

 実は敵キャラたちも、
主人公の時と同じように考えることができます。

 主人公がユーザーの分身で、
そのゲームシステムを遊ぶために、
生み出された存在だとすれば、

 ラスボスをはじめとする敵キャラたちは、
その主人公がゲームシステムで遊ぶところを
邪魔する形でデザインされているのです。

 前回とりあげました、
色々な剣を持ち換えてアクションするゲームであれば、

 敵キャラとは、色々な剣を持ち替え、
アクションしなければ倒すことができない――と、
そんなデザインをされているわけです。

 主人公とラスボスというのは、
物語の意味合い的にも、表裏一体のような部分がありますが、
まずゲームシステムとしても、表裏一体なのです。

 この主人公でもって、このラスボスを攻略する、
だから面白いと、そういうふうに作っていくんですね。

 なので主人公の遊びさえしっかりしていれば、
ラスボスや敵キャラの設定をどうするべきか?
ということも、自ずと見えてきます。

 主人公を邪魔するように、敵は存在します。

 敵キャラとは、主人公にとっての邪魔者であり、
ゲームを止めるような「障害」をもたらすものなのです。



(2)お約束を噛んでみる

 RPGではよくあるお約束があります。

 主人公は故郷を旅立ち、
様々な地をさすらって、戦っていく……。

 多数のマップを攻略しながら遊ぶゲームだから、
このようなお約束があるわけです。

 これを、もっと噛み砕いてみると、
「なんらかの障害」によって主人公は故郷にいられなくなった、
この「なんらかの障害」を取り除くため、
主人公は様々な地で戦う必要がある――と、
こういう風に言い換えることができます。

 つまり、主人公が旅に出る理由や戦う理由は、
ほぼ、ラスボスなど敵キャラの活躍によって
引き起こされているものなのです。

 キャラクターの作り方(1)で、とりあげた例なら、
王国が溶けない氷に覆われ、時が止まってしまう――。
 これを、ラスボスや敵の仕業とするわけですね。



(3)障害とスケール感について

 でも、となりの国に行くのに橋が堕ちていけない、
というような比較的わかりやすい「障害」まで、
すべてをラスボスの仕業にするかと問われると、
そこは、絶対というわけではありません。

 ここで、ちょっと関連して……。

 ゲーム上に現れるすべての「障害」を、
ラスボスのせいにするか、否かについてお話しします。
 これにはメリット、デメリットがあります。

 メリットは、ラスボスとの「因縁」が深まっていくこと。

 世界中のあちこちが、
ラスボスのせいで大変なことになっているので、
街のNPCの声もそれに準じた形になり、
「ラスボスを倒そう!」という一本道にしやすくなります。

 デメリットは、スケール感が失われる可能性があること。

 全ての「障害」が、
簡単にラスボスに結びついてしまうので、
「因縁」がわかりやすい反面、
なにか起きてもどうせラスボスの仕業でしょう?と、
先の展開を読みやすくなってしまうことです。

 こうなるとラスボスが小物っぽく感じられて、
スケール感が損なわれる可能性があるのです。



(4)実例で見るラスボスたち

 ここで、実際に私が開発に関わった
ゲーム例を上げて考えてみたいと思います。

 「サガ・フロンティア」のアセルス編では、
主人公アセルスと、
ラスボスとなる妖魔の君オルロワージュ様は、
ゲームの冒頭、運命的な出会いをしています。

 吸血妖魔の王である
オルロワージュ様の乗る馬車に、
アセルスが轢かれ、絶命。

 しかし、
オルロワージュ様の妖魔の血がアセルスに混じり、
アセルスは半分人間、半分妖魔の半妖として、
復活してしまった……となっています。

 つまりアセルスから見れば、オルロワージュ様は、
命を奪った相手であると同時に命を蘇らせた相手であり、
望みもしない半妖という宿命を背負わすと同時に、
そんな半端者のアセルスを養女として保護してもいる、
複雑な関係にある相手なのです。

 戦う理由が二重三重に重ねられることで、
オルロワージュ様とアセルスとは「因縁」を深めており、
そこからくる「障害」が多数存在します。

 また、「聖剣伝説レジェンド・オブ・マナ」の
宝石泥棒編=珠魅(じゅみ)編では、
主人公となる真珠姫と瑠璃くんは宝石を核とする、
珠魅という種族であり、
その宿敵として登場するのは、
サンドラという珠魅の核専門の宝石泥棒です。

 真珠姫と瑠璃くんと宝石泥棒サンドラの関係は、
種族として狩られる側と、狩る側という関係であり、
個人的な「因縁」が強いわけではありません。

 しかし、珠魅の仲間を探す旅の中、
「幾つかの事件=サンドラにより起こされる障害」を
経験し、目撃者として生き残ってしまう
真珠姫と瑠璃くんには、
サンドラへの「因縁」が深まっていくのです。

 チームの求めるカラーにもよりますが、
私自身はどちらかというと、ラスボスとの「因縁」が深く、
「障害」自体も、そこからもたらされるものが多くある、
というような、人間関係が濃厚なものを好みます。



 ゲームにデザインされた障害全体のうち、
どの程度ラスボスがらみにし、どの程度他のものにするかは、
ゲームの開発規模によります。

 開発規模が大きく、世界観もスケールを大きくしたい、
といった作品になればなるほど、
主人公の前に立ちふさがる組織や人物は、
増やさねばなりません。

 ラスボスに忠誠を誓う組織や、
ラスボス側でも主人公側でもない独自の思想を持つ、
第三の人物などなど、様々な人や組織を絡めて
大きな物語を描いていくことになります。

 一方、開発規模が小さく、
世界観を箱庭的にコンパクトにしたい作品は、
主人公の前に立ちふさがる組織や人物をしぼって、
限られたキャラクター数で、因縁が濃くなっていくよう、
物語を組み立てねばなりません。

 すべてが奴につながってる……というような感じです。



 前述の、アセルス編と宝石泥棒編は、
大規模開発にもかかわらず、
ややコンパクトにキャラクター配置をしています。

 これは、妖魔や珠魅の独特の世界を、
色濃くしたかったためです。

 大規模開発であったサガフロとレジェマナには、
妖魔や珠魅以外にもたくさんの魅力的な種族たちがいて、
それぞれに独特の世界を築きあげています。

 そのバックグラウンドの多様性の存在があるため、
妖魔と珠魅の物語は、コンパクトにまとまりつつも、
スケールの感じられる作品となっているのです。



(5)事件はすでに起きている!

 ここで、話を戻しまして……。

 開発規模や求められるテイストにかかわらず、
主人公が行動せざるを得ないという理由は、
ラスボスや敵組織の設定に絡めるものです。

 今まで行動しないですんでいたのに、
今まさに行動しなければならないのだ!
という状況の変化――。

 その変化の多くは、ラスボスを始めとする、
敵キャラクターたちの行動を原因としているわけです。

 つまり、ゲームシナリオでは、
多くの場合は、まず、事件は既に起こっています。

 犯人は先んじて動いており、
主人公はその全貌を知らぬまま状況に流され、
急き立てられるように旅立って行き、
少しずつヒントを集めて、真相に近づいていくわけです。



(6)主人公はなぜ、走り続けるのか?

 最後に、ラスボスや敵たちの目的――、
その設定の仕方についてお話しします。

 主人公より先んじて、
敵キャラやラスボスたちがアクションし、
障害となる事件を様々に
引き起こしていることがわかりました。

 では、彼らラスボスたちは、なにを目的に、
アクションを起こしているとすべきでしょうか?

 みなさんが真っ先に思い描く、
ラスボスの目的は、世界征服ではないでしょうか?
もしくは、人々の命を使って強大な魔力を得る、
というような、禁断の力。

 これらは、半分正解です。

 実は、世界制服とは誰にとっても困ることで、
ことさら主人公だけが手を上げて、
ラスボスと戦っていこうという理由にはならないのです。

 ラスボスを始めとする敵キャラの目的に、
一番当てはめたいものは、はっきりしています。

 それは、敵キャラの目的そのものが、
「主人公にとって」どうしても困る、というものです。

 なので敵キャラの目的をさらに掘り下げ、
「主人公だからこそ我慢がならない!」となるような、
主人公にとって着目せざるを得ない要素を足します。

 よくある形ですと、
世界征服のために犠牲になる人物が必要とし、
それを主人公の家族や友人にする手法です。

 「誰もが困る目的」へ、突き進むラスボス達。
そして、その「困る目的」へといたる手段の中に、
「主人公が個人的に徹底的に困る要素」
を足していくわけです。

 こういった設定にすれば、
「人間としての一般的な怒り」と「主人公の個人的な怒り」を
二重に重ねていくことができるのです。

 世界の命運を、儚げな少女が背負いやすいのは、
主人公の少年たちを、心ごと感情ごと動かし続けるための、
からくりのひとつなわけですね。

 基本的に、ラスボス側の目的の設定は、
「主人公が最後まで情熱や怒りを持って走り続けられる」、
そんな感情を揺さぶるものであるべきです。





 以上で、ゲームにおける
「キャラクターの作り方」のお話を終えたいと思います。

 非常に簡単にですが、今回は二回に分けて、
主人公とラスボスを始めとする敵の設定について
お話させていただきました。

 わかりやすくするため、単純な例を取りあげましたが、
実際のゲーム制作では、「こんな人間を描いて欲しい」とか、
「こんな驚きがある物語にして欲しい」などなど、
その作品ならではの様々なオーダーが乗っかってきます。

 しかし、どういった場合でも、
ゲームシステムを無視することは出来ません。

 ユーザーさんに、
どうやって遊んでもらいたいか?ということ。
遊びのアイデアを詰め込まれたのが主人公です。

 その遊びとマッチングした設定をつけ、
気持ちよく世界に入れるよう情報出しでリードしつつ、
次の冒険について、そのまた次の冒険について、
楽しく、自然に進められるようにしていく……。

 そんな設定作りが、求められています。

 遊んでこそのゲームです。
萌え要素や外見だけで、
キャラクターを作っているのではないのです。



 これからゲーム開発現場に入られる
若き開発者さんたちが、どんなキャラクターを、
生み出していくのか、楽しみにしています。

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